イチかバチか
上海新事情

2002/06/06 映画美学校第1試写室
成長目覚ましい上海で新しい仕事に挑む中国人たち。
素人役者を使ったドキュメンタリー調のドラマ。by K. Hattori

 現在アジアで一番元気な都市はどこか? それは上海だ! 現在上海は大規模な開発が進んで、超高層ビルが林立する国際的な巨大都市に成長しつつある。だが経済発展には大規模な産業の構造転換が不可欠だし、そこでは「雇用の適正化」という名の大規模なリストラが行われている。この映画の主人公チャン・バオチョンも、そんな経済政策のあおりを受けて務めていた会社を首になったひとりだ。彼は同じようにリストラで職を失った仲間たちに声をかけ、小さな内装工事店を開業する。建設ラッシュの上海では、流れに乗りさえすれば順風満帆の商売だ。だがそのためにはコネがいる。知人の親戚が大規模な公共工事の発注担当者だと知り、そのツテで大きな仕事が受けられると張り切るバオチョンだったが、じつはこれが巧妙な詐欺話。直接的な被害はあわなかったものの、工事受注に備えて人を雇ったり支払いをしたりしていたから、会社経営はいきなり火の車になる。だがこんな時こそ社員の結束と真価が問われるもの。社員たちの努力でなんとか危機を脱した時、バオチョンは臨時ボーナスがわりに宝くじを買ってきたのだが……。

 登場する役者は全員が素人。物語に描かれるのと同じような境遇の人々が、自分たち自身の生活を“演じる”という、半分ドキュメンタリーのような映画。完全なフィクションというより、すべてがヤラセで構成されたドキュメンタリー映画みたいなものだ。宝くじの当選という事件は、いわばヤラセ演出の「仕込み」みたいなもの。映画の最後には出演者がカメラの前でインタビューに答える場面を見ると、この映画がほとんど彼ら自身の体験談や生活の実際から生まれていることがわかる。

 物語としては山場らしい山場のないダラダラした展開。詐欺話にひっかかりそうになるエピソードや、宝くじ購入と当選のエピソードなど、普通の映画ならそれだけで手に汗握るクライマックスになりそうなエピソードが、他のエピソードに埋もれて淡々と語られていく。これは盛り上げるのに失敗したわけではなく、もともとこうしたエピソードを映画のクライマックスにするつもりがないのだろう。人生は山あり谷ありの連続だ。ましてや素人が寄ってたかって慣れない商売をするのだから、紆余曲折は日常茶飯。詐欺話も宝くじも、さして大騒ぎするようなことではないということだろうか。

 この映画の魅力は、細やかな生活描写の数々だろう。例えば食事のシーンがやたら多いのだが、職場での簡単な食事、お金がない中でみんなで囲む鍋、注文主が現場の職人を招いてのバイキング、宝くじが当たったことを知った時のお祝いの宴、賞金額が決まったあとのお祝い、地域の老人たちを招いての食事会。こうした日常の細部に、観光客や出張のサラリーマンの目からは見えてこない「上海の生活」が現れる。足の悪い幼い姉妹が、荷車に乗って市場の中を移動していく場面もちょっと素敵。国際都市として急成長を続ける上海も、その基本は中国人が生活する町なのです。

(原題:横竪横 GO FOR BROKE)

2002年7月6日公開予定 三百人劇場(中国映画の全貌2002)
配給:
東光徳間 問い合せ:シネマ・クロッキオ
(2000年|1時間27分|中国)

ホームページ:http://www.bekkoame.ne.jp/~darts/

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