アーメン

2002/06/15 東京日仏学院エスパスイマージュ
ホーホフートの代表作「神の代理人」をコスタ・ガヴラスが映画化。
若い修道士役のマチュー・カソヴィッツが熱演。by K. Hattori

 第二次大戦中のローマ法王ピウス12世については、神秘的でカリスマ性のある人柄が評価される一方、ナチスのユダヤ人虐殺を知りつつそれに沈黙したという批判も強い。ローマ法王の戦争責任問題は長くタブー視されてきたが、ドイツの作家ロルフ・ホーホフートは'63年に戯曲「神の代理人」でこの問題を取り上げ、世界中を議論の渦に巻き込んだ。はたして当時のローマ法王は、ホロコーストについてどの程度正確な知識を持っていたのか。世界一のキリスト教教派ローマ・カトリック教会の首長であり、イエス・キリストから天国の鍵の権能を預かった使徒ペテロの後継者として、法王はユダヤ人たちに手を差し伸べることができなかったのか。この映画はその「神の代理人」を、『Z』や『ミッシング』の社会派監督コスタ・ガヴラスが映画化した歴史ドラマだ。

 物語の主人公はナチス親衛隊の将校だった、クルト・ゲルシュテインという実在の人物。防疫の専門家として水質濾過や害虫駆除の任務に当たっていた彼は、ある日ポーランドのユダヤ人収容所に呼び出され、そこで大規模なユダヤ人虐殺が行なわれている事実を知る。彼に与えられた新しい任務は、効率よく害虫(ユダヤ人)を駆除するためのガス室作りとその運営だった。ゲルシュテインは熱心な愛国者でナチス党員だ。ヒトラーびいきだし、反ユダヤ感情だって持っている。だがユダヤ人を差別することと、ユダヤ人を殺すことは大違いだ。彼はこの蛮行をなんとか食い止めようと、ドイツの教会関係者や仲間たちに収容所の実態を話す。だが多くの人は「そんな馬鹿げた話があるはずない」と事実に背を向け、「そんな話が公になれば敵のプロパガンダに利用されるぞ」とゲルシュテインを裏切り者扱いする始末。彼は最後の頼みの綱として、カトリック教会の権威に頼ろうとする。この事実がローマ法王に伝われば、ドイツの犯罪はカトリック教会を通じて世界に告発されるに違いない。ゲルシュテインは若い修道士リカルドという協力者を通じて、何とか法王と接触しようとするのだが……。

 映画は原作「神の代理人」から、ナチスの犯罪に対するローマ法王の沈黙というモチーフを借りて、あとはかなり自由に脚色しているようだ。ここから読みとれるのは、他人の痛みに対してはどこまでも冷淡になれる人間の残酷性だろう。自分の目の届かないところで殺される1万人の人間の苦しみより、人間にとって大切なのは今この時に痛む自分の虫歯だったりする。悲しいことに、それはバチカンの聖職者たちですら同じなのだ。ナチスの収容所では、処刑される囚人の身代わりになって死んだコルベ神父の存在がよく知られている。だがナチス批判に消極的だった当時のカトリック教会は、間接的にコルベ神父を見殺しにしたのと同じではないか?

 ふたりの主人公が追い込まれていく様子が、画面を通してヒリヒリと伝わってくる力作。人間は弱い。強くあろうとしても、個人としての人間はあまりにも無力だ。この世の中は、なんと不完全にできているのだろうか。

(原題:Amen)

2002年6月22日上映予定 フランス映画祭横浜2002
配給:未定
(2002年|2時間10分|フランス、ドイツ)

ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/

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原作洋書(英訳):The Deputy (Rolf Hochhuth)
原作洋書(英訳):The Representative (Rolf Hochhuth)
DVD:コスタ・ガヴラス監督  (2)
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