なごり雪

2002/07/24 徳間ホール
フォークの名曲「なごり雪」をモチーフにした大林宣彦作品。
ヒロインを演じた須藤温子は原田知世の再来だ。by K. Hattori

 フォークの名曲「なごり雪」は、今から28年前、かぐや姫のメンバーだった伊勢正三が作詞作曲してアルバム「三階建の詩」に収録したものだ。その後この曲はフォークシンガーのイルカがカバーして大ヒット。その後も多くのアーティストにカバーされ歌い継がれてきた、日本の音楽史に残る名曲だ。同じかぐや姫の曲でも「神田川」や「22歳の別れ」は“四畳半フォーク”というカテゴリーで語られることが多く、その曲に郷愁や懐かしさを感じることはあっても時代を超えていく歌とはなり得ないように思う。「なごり雪」にももちろん時代性はあるのだが、70年代という特定の時代と結びつくことなく、いつの時代にも青春の歌として通用できる強さがある。

 大林宣彦監督の新作『なごり雪』は、この名曲をモチーフにした青春ドラマ。三浦友和が演じる梶村祐作は高校時代の親友・水田からの電話で、28年ぶりに故郷大分に帰ることになる。水田の妻・雪子が交通事故で危篤状態だというのだ。雪子は高校時代の祐作にとって、たったひとりの大切な女性だった。だが大学に進学して都会の暮らしに慣れた祐作は故郷と疎遠になり、ついには水田や雪子にも黙って、大学で知り合った同級生と付き合うようになる。最後に故郷に戻った日、雪子は祐作に何を伝えようとしたのだろうか……。

 大林監督と言えば「尾道映画」だが、尾道での映画作りにひとつの区切りをつけた監督が次に向かったのは、やはり昭和のままの古い町並みの残る大分県臼杵だった。この映画は物語を作ってからロケ地に臼杵を選んだのではなく、最初に「臼杵で映画を作ろう!」という話が決まってから、モチーフとして「なごり雪」を選んだのだという。「なごり雪」の作者伊勢正三は、臼杵の隣町津久見の出身なのだという。

 シンプルな三角関係のドラマだ。祐作と雪子は好きあっている。ふたりを見守る水田だが、彼はじつのところ雪子を好いている。だがこの三角関係は、祐作が抜け落ちることでバラバラに壊れてしまう。これは大林監督の代表作『時をかける少女』における原田知世と高柳良一のカップルと、ひそかに原田を好いている尾美としのりの関係と同じだ。雪子を演じるのは新人の須藤温子。その初々しさも、デビュー当時の原田知世を彷彿とさせる。昭和期の古い町並み。味のある老人たち。実験映画風のトリッキーな演出。『時をかける少女』が好きな人は、今回の映画にもそれと同じ匂いを感じられることだろう。

 ただし映画全体としては、演出にちょっと力がないような気がした。例えば一番感動的な雪のシーンも、感動すると同時に「後片付けが大変だろうなぁ」といらぬことを考えてしまう。こうして観ている者の感想がアサッテの方向を向いてしまうのはどうも……。歌詞をそのまま台詞に持ち込むのも賛否が分かれそう。ラストの水田の号泣も、それがどんな意味を持つのか僕には釈然としなかった。

2002年9月公開予定 有楽町スバル座
配給:大映
(2002年|1時間51分|日本)

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