TAMALA2010

2002/07/29 メディアボックス試写室
かわいい仔猫が主人公のニューウェイブSFアニメ。
これはカルト映画になるだろう。by K. Hattori

 「凄い映画」には2種類ある。「よくわかって凄い映画」と、「よくわからなくて凄い映画」だ。後者はさらに「よくわからないのに凄い映画」と、「わからないのが凄い映画」に細分化される。「よくわからないのに凄い映画」としては、デビッド・リンチの諸作品を例にあげられるだろう。本作『TAMALA2010』は残る一方の「よくわからないのが凄い映画」ということになる。

 この映画は話がまったくわからない。なぜこんな映画が生まれてしまったのかもよくわからない。そもそも作り手が何者なのかもわからない。すべてが謎。すべてがミステリアス。かなり綿密に世界観が作り込まれたSFアニメ映画だが、作り手の思いこみが優先してお話が空回りし、観ている方はまったくチンプンカンプンになってしまう。まるでフィリップ・K・ディックの失敗作を読んだ時の気分を、そのままアニメで追体験させてくれるような感覚だ。

 映画配給会社キネティックのタイトルロゴ(MGMのタイトルロゴのパロディになっている)に登場する、可愛い仔猫のキャラクターが、この映画の主人公タマラ。1時間32分のこの映画は彼女を主人公にしたSFアニメで、全編が原則としてモノクロ。一部がカラーになっている。基本的な絵のタッチは、昭和30年代の日本アニメ創生期の雰囲気。「鉄腕アトム」みたいなものです。主人公のタマラが歩くと、アトムやウランちゃんのようにピョコピョコ音がする。すごくかわいい。チャーミング。それなのに、この内容のハードさは何だろう。多元宇宙? タイムトラベル? テロリズム? カニバリズム? 世界規模での陰謀? ゾンビ? 映画の中にはありとあらゆる雑多なアイデアが、惜しげもなく注ぎ込まれている。この大盤振る舞いも、ディック的なんだよね。

 声の出演が豪華。主人公タマラのボーイフレンドになるミケランジェロ役には武田真治。学会でタマラについて研究発表している教授(じつはミケランジェロの未来の姿)の声に加藤武。このふたりが、まぁよく喋ること! 架空の哲学、架空の宗教、架空の歴史について、大真面目にウンチクを語り続けるのだ。その様子は押井守の映画にもちょっと似ているかもしれないけれど、喋る分量は押井映画の3倍ぐらい喋っているように思う。この喋り自体には意味があるのかもしれないけれど、意味がないのかもしれない。大量の言葉によって、物語の根本がぐらぐらと歪み、ぬかるみ、倒壊しそうになる。(ひょっとすると倒壊しているのかもしれない。)それでも物語がかろうじて進んでいくのは、キャラクターのかわいらしさゆえだろうか……。

 僕はこの映画がさっぱりわからなかったのだが、きっとわかる人にはわかるのだろう。きわめて小さな世界で熱狂的に支持され、カルトムービーにることで生き延びていきそうな映画だと思う。

2002年初秋公開予定 シネクイント
配給:キネティック
(2002年|1時間32分|日本)

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