恋人のいる時間

2002/07/30 映画美学校第1試写室
ひとりの女と夫と愛人の三角関係を描いたゴダールの長編第8作。
表現面に面白さは感じるが内容はチンプンカンプン。by K. Hattori

 ジャン=リュック・ゴダールが'64年に製作した長編第8作。マーシャ・メリル演じる人妻シャルロットには、フィリップ・ルロワ演じる夫ピエールの他に、ベルナール・ノエル扮する愛人ロベールがいる。夫は妻の浮気を疑って私立探偵を雇うが、彼女はタクシーを何度も乗り継ぐなどして巧妙に尾行を出し抜いてしまう。彼女が離婚したら結婚しようと約束しているロベール。だが彼女と夫の仲は、取りたてて険悪というわけではない。彼女は夫と愛し合い、愛人との逢瀬も続ける。やがて彼女は妊娠するのだが……。

 人物配置はシンプルな三角関係。ひとりの女とふたりの男。女はふたりの男を同じぐらい愛し、ふたりの男は常に「もうひとりの男」の存在を意識しながら彼女を愛する。夫と愛人が直接顔をつきあわせることはなく、ヒロインだけがふたりの男の間を行き来する。三角関係は破綻せず、修羅場もない。シャルロットとロベール、シャルロットとピエール、シャルロットとロベール……。エピソードは交互につながれて、映画は導入部をなぞるように閉じていく。

 ヒロインのシャルロットを中心に、日常の些細な出来事や情事の様子を次々に描いていくという構成だ。物語は愛人の部屋でシャルロットとロベールが情事を交わすシーンで始まり、その翌日は彼女が夫と過ごし、さらにその翌日になってシャルロットが再び愛人とホテルに入るところで終る。その間に、愛人との会話があり、夫との会話があり、メイドとの会話があり、友人との会話がある。姿勢矯正危惧。無機質な口調で告げられる不穏なラジオニュース。笑い声のレコード。雑誌の広告。町の看板。盗み聞きされる少女たちの会話。プールではしゃぐ女たち。こうした細々とした日常、それも映画的にたっぷりと潤色と演出を施された日常の些事が、ヒロインを取り囲んでいる。

 少女たちの会話にまったく別の会話をスーパーインポーズしたり、プールのシーンでネガとポジを交互につないだり、本の朗読や即興のインタビューを会話シーンとして挿入したりする演出は、今観てもそれなりに新鮮。こうした手法はその後さんざん他の映画にも真似されているわけで、今さら新鮮味を感じることはない。しかしこの映画にのこうした実験的描写には、今でもオリジナルだけが持つ強烈な生命力がみなぎっているようにも思える。

 ゴダール映画の表現手法は映画を一瞥すれば誰にでもよくわかるし、それは後続の映画人たちに多大な影響力を与えている。でもこうした表現を通して、ゴダールが何を表現しようとしているのかは、相変わらず僕にはよくわからない。こればっかりは結局、ゴダールと同時代の世相や思想的潮流を抜きにしては理解できないのでしょう。僕自身はそうしたゴダールの深層に興味がないので、表面だけながめて「うわ〜い面白い」と思えればそれでいいんだけどね。

(原題:UNE FEMME MARIEE)

2002年秋公開予定 シネセゾン渋谷(レイト)
配給:ザジ・フィルムズ 宣伝:アニープラネット
宣伝:メディアボックス
(1964年|1時間35分|フランス)

ホームページ:http://www.zaziefilms.com/

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関連リンク:ゴダール

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