スコルピオンの恋まじない

2002/08/14 GAGA試写室
ウディ・アレン自作自演のミステリー風ラブ・コメディは1940年が舞台。
催眠術を使った盗難事件に保険調査員が挑む。by K. Hattori

 ウディ・アレン自作自演の新作は、1940年のニューヨークが舞台のミステリー風ラブ・コメディ。アレン扮する主人公C・W・ブリッグスは、大手損保会社のベテラン調査員だ。警官や探偵ではないが、盗難事件が起きればそれを独自に調査して盗品を取り戻す。風采の上がらない外見に似合わず、ブリッグスはこの業界で腕っこきとして知られているのだ。だが彼の目下の宿敵は、保険金目当ての詐欺師でも泥棒でもなく、会社の内部にいた。新しく雇われた女性重役のベティ=アン・フィッツジェラルドが、リストラ策として調査部門の外注化を打ち出したのだ。自分の仕事に人一倍誇りを持つブリッグスは、この同僚がまったくもって気にくわない。ふたりは社内でも有名な犬猿の仲なのだ。ところがある日同僚の誕生日を祝うため訪れた店で、このふたりは怪しげな魔術師ヴォルタンに催眠術をかけられる。「コンスタンチノープル!」「マダガスカル!」と呪文をかけると、ふたりは熱烈に愛し合うカップルに早変わり。この様子は見物の同僚たちは大受けだったが、ふたりはその間の記憶がまったくない。そしてその夜、ブリッグスの部屋に1本の電話がかかってくる。電話の向こうの声は「コンスタンチノープル」とつぶやいた……。

 映画の筋立ては古風な探偵映画そのものだ。保険会社の社員に催眠術をかけ、警報装置で守られた金持ちの邸宅から高価な貴金属を盗み出させる悪党。自分が催眠術の支配下にあることを知らぬまま、犯人探しに躍起になる調査員。やがて現場の状況証拠から、主人公の調査員本人に犯行の容疑がかけられる。探偵や警察の手を逃れ、真犯人を捜そうと夜の町をさまよう男。やがて彼はちょっとした手がかりから、事件の黒幕を突き止める。う〜ん、ハードボイルド。

 ところがこんな話もウディ・アレンの手にかかると、極上のコメディになってしまう。アレンには似たような趣向の『影と霧』や『マンハッタン殺人ミステリー』という作品があるが、今回はそれよりずっとゴージャスな雰囲気の映画に仕上がっている。全体に明るい飴色に染まった画面の中で繰り広げられる、気の強い女と頑固な男の言葉の応酬。いがみ合っていたふたりはやがて恋に落ちる。これもありがちな展開だが、アレンはこうした映画を確信犯で作っている。この映画なんて、主人公をアレンではなくもっと若くて二枚目のタフガイが演じれば、ごく普通の映画になってしまうだろう。この映画はアレンが演じるからこの味が出る。しょぼくれたアレンが意外なタフガイぶりを発揮し、なぜか美女にモテモテという無茶を、無茶を承知で押し通すところにこの映画の楽しさがある。

 インチキ魔術師のヴォルタンはともかくとして、主要登場人物に悪人がひとりもいないのがいい。相手役のヘレン・ハントも社長役のダン・エイクロイドもいい感じ。小さな役まで神経の行き届いた配役です。

(原題:The Curse of The Jade Scorpion)

2002年秋公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
(2001年|1時間40分|アメリカ)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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