恋に唄えば!

2002/09/17 東映第1試写室
金子修介が監督した優香主演のミュージカル・ラブ・コメディ。
脚本にミュージカル映画らしさがなくて大失敗。by K. Hattori

 金子修介監督の新作は、人気タレントの優香と竹中直人が主演したミュージカル・コメディ。デパートに勤めるユミは、最愛の恋人サトルから突然別れを告げられ大ショック。「ああ、何とかして彼を取り戻したい!」と思っていた矢先、催事コーナーで偶然触ったアラビアの壺から怪しげな魔法使いが登場。「あなたの願いを何でもかなえてしんぜよう」と言われれば、ユミが願うことはもちろんただひとつだけ。魔法使いの壺男はその願いを気安く請け負うのだが、じつは人の心を魔法で操ることは魔界でも御法度。それでもユミと壺男は、サトルを追って一路オーストラリアへと飛ぶ!

 僕はミュージカル映画が好きだけれど、この映画にはいささか異論がある。残念なことにミュージカル映画の時代は数十年前に終っており、新作映画でミュージカルを作っても、映画スターの歌や踊りに人々が素直に胸ときめかすことはできないのが現状だ。そこでミュージカルを押し通すには、何かしらの工夫が必要になってくると思う。

 そもそもミュージカル映画は、登場人物が突然歌ったり踊ったりすること自体がヘンなのだ。だからそのヘンさを観客に飲み込んでもらうため、いろいろな工夫をする。ミュージカル映画に芸人や俳優や歌手や音楽家を主人公にした作品が多いのも、歌って踊る不自然さを和らげるためだろう。丹念にスタジオセットを組んで、人工的な空間の中で人工的なミュージカル世界を展開する方法もあれば、『サウンド・オブ・ミュージック』のように、映画の開始直後からいきなり歌ってしまうという方法もある。

 この『恋に唄えば!』などは、映画の出だしからいきなり歌わせるべきだったと思うのだ。いかにもミュージカル映画然とした序曲風のオープニング曲から、そのまま竹中直人扮する壺男の歌に入り、ヒロインが恋人に振られる冒頭のエピソードにバトンタッチする。壺男はヒロインの不器用な恋を見守る狂言回しとして物語に登場するが、やがて第三者としての立場を維持できないまま、物語に巻き込まれていく。ブレヒト&ワイルの「三文オペラ」方式だ。

 この映画にはいくつかの音楽シーンがあるが、たとえ登場人物が歌ったり踊ったりしても、そこにミュージカル映画らしさが感じられないのは残念だった。ミュージカル映画らしさとは、ミュージカル映画特有の約束事。歌を歌って恋に落ちた恋人たちは、些細なことからケンカするが、やがて歌を歌って仲直りする。歌のシーンが心理的な変化を助け、物語をそこで飛躍させるのだ。ところがこの映画では、ミュージカルシーンにそうした飛躍がない。映画全体が非常にもたもたして見えるのは、それが原因ではないだろうか。演技や歌や振り付けについてどうこう言う以前に、これは脚本が悪すぎたと思う。ミュージカル映画には、もっと周到で緻密な計算が必要なのです。

2002年11月16日公開 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
(2001年|1時間40分|日本)

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