KUMISO

2002/09/17 TCC試写室
香月秀之監督が描く小市民的やくざの日常生活とおかし味。
脚本、キャスト、演出の三拍子が揃った快作。by K. Hattori

 伊崎組組長・伊崎仁が57歳で急死。その人柄が多くの人々を引きつけてきた伊崎組長だったが、人柄のよさは組の台所事情に比例しない。苦しい財政状態の中で、いかにして渡世の義理を欠くことなくきちんとした葬儀を行なうことができるものか。だが古株の幹部たちとて懐が苦しいのは同じだから、顔つき合わせても思案投げ首で話はちっとも先に進まない。そんな時「俺が組葬を仕切らせてもらいます」と名乗りを上げたのは、幹部の中でももっとも新しく組に加わった松田だった。彼は旧来からのやくざ渡世とそりが合わず、伊崎組長の紹介で伊崎組長の企業舎弟・宮田のもとに預けられ、めきめきとその頭角を現した新しいタイプの経済やくざ。だがその身体には、親分子分や兄弟分の義理人情を重んじる、昔ながらのやくざと同じ熱い血が流れていた。

 このクラスのインディーズ低予算やくざ映画は、毎年膨大な数が作られている。おそらく年間製作される日本映画の(正確に数えてませんが)3割以上が、これらの映画で占められているのではないだろうか。それだけ作られるからには、それに見合うだけの観客側の需要があるのだろう。なぜ人はやくざ映画に引きつけられるのか。それは映画の中のやくざたちが、自分たちの欲望をストレートに行動に移し、目的達成のためにはあらゆる努力を惜しまない正直者ばかりだからだと思う。見栄や外聞にこだわって自分の欲望を押しつけるぐらいなら、堅気のサラリーマンをやっていればいい。

 もちろんやくざ社会にはやくざ社会のルールやしがらみがあるのだが、その枠組みが堅気の商売とは異なっている。やくざ社会のルールと堅気のルールは、一部を共有しながらも微妙にずれているのだ。この映画ではそのずれをかなり意識した脚本が作られていて、見ていてなるほど頭のいい本だと思った。映画を観ていると「こんなこと身の回りにもあるよなぁ」と思う。「こんなのアリガチだよなぁ」と思う。しかしそこから先が、やくざ映画風の味付けになる。その面白さ。おかしさ。思わずフフフと笑いがこみ上げてくる。

 健康に人一倍気をつかっていた組長がぽっくり死んでしまうとか、組の中ではみんなズボンを脱いでくつろぐとか、扇子に書いてある奇妙な文句とか。葬式の費用でローンが組みたくても信販会社の審査を通らないとか、高額の費用を子供たちでどう負担するかとか、戒名にバカ高い金を取られて憤慨しても文句が言えないとか、精進落としに焼き肉を食ってお骨を忘れてきてしまうとか。葬儀の客をどう並べるかとか、花輪の位置をどうするかとか、香典の多寡で客を値踏みするとか。こうしたいかにも小市民的やくざを描きながら、最後の最後にポンとやくざ映画の常道に飛んでみせるのが、この映画の小気味よさ。いかにせこく見えようと、小市民ぽく見えようと、やくざはやくざ。やくざ映画としての面目を施すエンディングでした。

2002年11月公開 新宿ジョイシネマ3
配給:アースライズ 宣伝:スキップ
(2002年|1時間35分|日本)

ホームページ:http://www.katsuki-film.com/

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