ラベンダー

2002/10/04 銀座ガスホール
ケリー・チャンと金城武が主演したファンタジックなラブストーリー。
主人公たちの気持ちの掘り下げが今ひとつかな。by K. Hattori

 『冷静と情熱のあいだ』のケリー・チャンが金城武と共演したファンタジー系のラブストーリー。ふたりの共演は『世界の涯てに』『アンナ・マデリーナ』以来3度目だという。監督は『わすれな草』のイップ・カムハン。恋人を失って以来、毎日泣いて暮らしていたヒロインのもとに、ある晩ひとりの天使がやってくる。翼を傷つけて飛べなくなった天使はヒロインと同居生活をはじめるのだが、やがてふたりの間には恋に似た感情が芽生えて……という話。

 天使には人間にないいろいろな特徴があるから、人間と天使の差異をうまくストーリーに盛り込めば面白いエピソードがいくらでも作れそうだ。ところがこの映画では、そうした「天使ならでは」のエピソードがほとんど登場しない。翼に傷を持つ天使は空を飛べないし、奇跡を起こすような人間離れした超能力を持つわけでもなく、地べたをはいずりながら並の人間よりもブキッチョな生活を送ることになる。この映画に登場する天使は、神話や伝説に登場する天使とはちょっと違う。ヒロインに想いを寄せながらもそれを素直に表現できない、不器用で純粋無垢な男がこの天使なのだ。

 翼に傷を持つ天使という設定は、この天使が性的には不能であることを示している。翼という移動手段を奪われた天使には、ヒロインから古びた靴が与えられる。これが天使の性的な能力を補完する。靴を与えられた天使は性的な能力を不完全な形ながら回復し、ヒロインに恋をすることができるようになるのだ。この靴がなければ、天使とヒロインの間のロマンスは成立しない。靴を捨てられてしまった天使が、必死に靴を探し回るのも、天国に向かう天使が靴を履いたまま旅立っていくのもそのためだ。

 映画の中にはいろいろなアイデアが盛り込まれている。香りで人を癒し力づけるアロマテラピー。ヒロインの隣の部屋にいるゲイの男。地上のあちこちに隠れている、翼をたたんだ大勢の天使たち。しかしそれらが、あまり有機的なつながりを持っていないのは残念。アロマオイルの力で天使が発情するというエピソードは面白いけれど、こうした香りのエピソードが物語そのものと密接な結びつきを欠いているため、クライマックスのラベンダー畑がいささか唐突なものに思えるのではないだろうか。残念なことに、僕には主人公たちがなぜヨーロッパに行く必要があるのか、さっぱりわからなかったよ。

 こうした映画では、ヒロインの心の傷がなぜ生じたもので、どうすればそれを癒すことができるのかが、ドラマの後半で明確に見えてきてほしい。この映画はそれに失敗しているようで、映画前半で提示された「恋人が死んだ」というお話から少しも深まっていかないのが残念。もう少しヒロインの気持ちを掘り下げていくと、最後のヨーロッパ行きも、その後のヒロインの再出発と新しい出会いも、素直に腑に落ちると思うのだけれど……。

(原題:薫衣草 lavender)

2003年新春第2弾公開 シネ・リーブル池袋
配給:ツイン、キングレコード 協力:東京テアトル 宣伝:楽舎
(2000年|1時間47分|香港)

ホームページ:http://www.get-hongkong.com/

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主題歌CD:薫衣草(ケリー・チャン)
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