きらめきの季節
美麗時光

2002/10/07 映画美学校第2試写室
『最愛の夏』のチャン・ツォーチ監督最新作。テーマはやはり家族。
現実と幻想がつながる構成は好き嫌いありそう。by K. Hattori

 『最愛の夏』で東京国際映画祭のグランプリを受賞している、台湾の映画監督チャン・ツォーチの最新作。黒社会に身を投じるふたりの青年を主人公にした青春映画だが、主演の若い役者たちは前作『最愛の夏』にも出演しており、ふたつの映画は同じような出来事を別々の方向から描いた姉妹編のような位置づけになっている。物語としてのつながりはないのだが、家族の絆、暴力、死といった映画の題材は、ふたつの作品に共通するものだと思う。

 従兄弟同士で幼馴染みでもあるアウェイとアジェ。やくざ組織の下働きとして駐車場係などをしていたアウェイは、仕事にあぶれてブラブラしていたアジェを自分の兄貴分に紹介し、ふたりで居酒屋の売掛金を回収する仕事をあてがわれる。最初の仕事をそつなくこなしたふたりは、兄貴からピストルを褒美にもらってご満悦。だがすぐ頭に血が上るアジェは、このピストルを使ってとんでもない事件を起こしてしまう。掛金の取り立てに行った先でトラブルに巻き込まれたアジェは、持っていたピストルで相手を撃ち殺してしまったのだ。

 幼馴染みの少年たちがやくざ組織に入り、そこで事件を起こして自滅していくという、この手のジャンルの映画ではありがちなストーリー展開。しかしこの映画の特徴は、やくざ映画という縦糸に、アウェイとアジェの家族や家庭という横糸をびっしりと織り込んでいることだろう。特にアウェイと双子の姉アミンの関係は、この映画の重要なエピソードとなっている。アミンを通じて彼女の元恋人だったというアチャという青年が登場するし、アミンとアチャが共に持っている水槽も、過ぎ去った幸せな日々を象徴する重要な小道具になる。また映画の中では特にエピソードが掘り下げられているわけではないが、主人公たちと父親の関係が濃密に描かれるのは印象的だった。この父子関係には、同じ台湾の映画監督ツァイ・ミンリャンの作品と同じにおいがする。

 物語そのものよりも、僕はこの映画のコクのある絵作りが気になっていた。風景がいつも、少し濡れたような独特の発色をしている。石造りの家、コンクリートの壁、薄汚れたどぶ川のような風景も、こってりと色が乗ってじつに味わい深い風景になっている。こうした絵作りはもちろん意図的なもので、特にそれがはっきりとわかるのは室内シーンや夜のシーン。画面全体をグレーで占め、その中にポイントとなる色を少しずつ配置していく。水槽の中の青白い光。蒼く浮き上がる夜の街路。赤いレンガ。同じ風景を何の工夫もなくぼんやり撮っていても、こうした魅力のある風景には仕上がらないだろう。

 映画の中盤以降、現実と幻想がゆっくりと溶けあっていく。枕の下から現れたピストルの弾が、エンディングの海底へと主人公たちを導いていく鍵になるのだろうか。このあたり、ちょっとわかりにくいけど、これが監督の個性か。

(原題:美麗時光 The Best of Times)

2003年お正月公開 シアター・イメージフォーラム
配給:ビターズ・エンド
(2001年|1時間50分|台湾、日本)

ホームページ:http://www.bitters.co.jp/kirameki/

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関連DVD:チャン・ツォーチ監督

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