抹殺者

2002/10/25 ニュー東宝シネマ
アントニオ・バンデラスが発掘されたイエス・キリストの遺骨の謎に挑む。
ミステリー映画としては題材がものすごくマニアック。by K. Hattori

 イスラエルの首都エルサレムの旧市街で、約2千年前の古い墓が発見される。富豪のものと思われるその墓から見つかったのは、磔刑で死んだと思われるひとつの遺体。下層民や政治犯の処刑法だった磔刑の遺体が、なぜ富豪の墓にあったのか? こんなことは普通は考えられないことだ。だが歴史上たったひとりだけ、磔刑死した罪人が富豪の墓に葬られた例があった。その名はイエス。世界中のキリスト教徒が人類の救世主として崇める、イエス・キリストその人だ。もしこの遺体がイエスのものだったとすれば、イエスの復活を信仰の拠所とするキリスト教は根本から瓦解する。バチカンはこの知らせを受けて、調査のためマット神父をエルサレムに派遣するのだが……。

 主演はアントニオ・バンデラス。邦題はバンデラスがスタローンと共演したアクション映画『暗殺者』を連想させるが、今回の映画はアクションやサスペンスよりもミステリーで物語を引っ張っていく構成。映画の中では「新発見の遺骨」を巡ってバチカンとイスラエル、そしてパレスチナ過激派まで加わって強烈な政治的駆け引きが行なわれるのだが、そこで問われているのは「誰が遺骨を手にするか?」「遺骨の正体は何者か?」というミステリーより、むしろバンデラス演じるマット神父の信仰のあり方だ。

 キリスト教は「処刑されて死んだイエスが3日目に復活した」という弟子たちの確信から生まれた宗教だ。使徒パウロはその手紙の中で『キリストが復活しなかったのなら、わたしたちの宣教は無駄であるし、あなたがたの信仰も無駄です。更に、わたしたちは神の偽証人とさえ見なされます』(コリ一15:14/新共同訳)と言い切っている。こうしたキリスト教の大原則が理解されないと、主人公マット神父の苦悩は理解できないだろう。

 最近は考古学や歴史学や聖書学の発達によって、イエスが生きた時代の社会制度や初期教会の成り立ちについて、かなり詳しいことがわかってきた。ほんの数十年前までは聖書だけをテキストにイエスの時代について論じられたのに、最近は聖書を正確に読むために、聖書そのものを批判的な目で見ることが求められるようになってきている。だが学術的な研究によって信仰対象から神秘のベールが次々にはがされていくことに対し、信仰の危機を感じる人たちも多いのだ。「イエスの遺骨発見」というのはもちろんフィクションだが、これは「学術研究によって宗教の根幹が侵される」ことの比喩なのだ。

 映画は最後の種明かしが少々わかりにくい。暗号の解読がマット神父の苦悩にひとつの解答を与えるのだが、映画を見ていても何がどうしてマット神父の苦悩が解消されたのかよくわからなかった。最後に取って付けたようなアクションシーンを入れたため、映画全体のバランスが崩れてしまったようだ。最後の最後まで謎解きに徹した方が面白かったと思う。

(原題:The Body)

2002年10月19日公開 ニュー東宝シネマ他・全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画
(2000年|1時間50分|アメリカ、イスラエル)
ホームページ:http://www.herald.co.jp/massatsusha/

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DVD:抹殺者
原作:遺骨(リチャード・ベン・サピア)
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