マブイの旅

2002/11/08 松竹試写室
リストラされたアル中の中年男が沖縄で出会った娼婦たち。
山田辰夫と冨樫真主演の大人のファンタジー。by K. Hattori

 勤めていた大手家電店をリストラされ、妻子にも逃げられた中年男・福間洋平は、手元にあった有り金を残らず持って沖縄にやってくる。地元のユタ(沖縄の巫女)に「あんたはマブイ(魂)を落としている」と言われた福間は、昼間から浴びるように酒を飲み、娼婦を買って周囲にはべらす放蕩生活に突入。やがて福間は娼婦・金城文海と親しくなり、彼女の恋人が起こしたトラブルに巻き込まれていくことになるのだが……。

 監督は『六本木フェイク』『ブルーフェイク』の出馬康成。主演は『狂い咲きサンダーロード』でデビュー以来、膨大な数の映画やVシネに出演している山田辰夫。文海を演じているのは『犬、走る』『閉じる日』の冨樫真。彼女は脱ぎっぷりのよさで定評があるけれど、今回も登場した瞬間に一糸まとわぬヌード姿でヘアまで開陳。ここまで堂々とされるとぜんぜんイヤらしい感じがしない。いつも大声で怒鳴り、口を大きく開けて笑い、大げさに泣きわめき、がに股でのしのし歩き、時には男をぶん殴るような乱暴さも見せる型破りなヒロインだが、それを冨樫真が演じるとじつにカッコイイ。ヒロインの感情の揺れをスピーディーに大胆に演じるから、それが飲んだくれてヨレヨレの主人公と好対照になって、映画がバランスよくなっているのだと思う。

 飲んだくれの中年男と娼婦の恋物語といえば、ニコラス・ケイジとエリザベス・シューが主演した『リービング・ラスベガス』という映画があった。この映画がそれを意識したとは思えないけれど、舞台が現代のバビロンであるラスベガスから土着的なエネルギーを残す沖縄に移ったことで、アル中男と娼婦の破滅的な恋も、どういうわけだか最後はハッピーエンドになってしまう。太陽に照らされて、アルコール分がすっ飛んでしまうのだろうか。

 この映画の中には暴力がある、組織犯罪がある、レイプもある、基地の島である沖縄の悲しい歴史もある。だがそれらをすべてひっくるめて、最後はなんとなく平和な地点に着陸していく物語の不思議さ。ハッピーエンドになりっこない設定、ハッピーエンドになりっこない物語が、ハッピーエンドになってしまう幸福感。もちろんこれはファンタジーなのだけれど、そのファンタジーを成り立たせているのが「沖縄」という土地なのかもしれない。

 この映画はいわば自分を失った男の「自分さがし」がテーマだが、一度レールから逸脱した男がぐるりと回ってもとの軌道に戻ってくるのではなく、自分が思ってもいなかった別方面に進む道を見つけ、それに喜びを感じるという話になっている。仕事を失う。家族を失う。金も使い果たす。それでも尚かつ、そこから新しい幸せが見つかるかもしれないという、きわめて楽天的なエンディングが痛快。もちろん主人公たちの未来がそれほど簡単なものとは思えないのだけれど、それでも「なんとかなるよ」と思える終り方でした。

2002年12月公開予定 テアトル新宿(レイト)
配給・宣伝:(株)フラックス・トーン
配給・宣伝協力:(株)コミックツイスター
(2002年|1時間57分|日本)
ホームページ:http://www.film-izmax.com/mabui/

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DVD:マブイの旅
関連CD:Sharon Stones(天野月子)「カメリア」収録
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