イナフ

2002/11/13 ソニーピクチャーズ試写室
ジェニファー・ロペスが富豪の暴力亭主と渡り合う。
監督はマイケル・アプテッド。by K. Hattori

 ダイナーでウエイトレスをしていたスリムは、店を訪れた親切な男性客ミッチと結婚した。彼は大富豪の息子で、自分で会社を経営する青年実業家でもある。結婚から間もなく娘も生まれ、夫婦仲は円満そのもののように思えた。だがそれから数年後、スリムの生活は一変してしまう。夫ミッチの浮気がばれたのだ。だがミッチは誤るどころか、逆に開き直る始末。浮気はやめず、スリムが家を出ていくことも認めないと言う。「この家も、娘も、君も、すべて僕のモノだ。勝手なことは許さない」というのがミッチの理屈だ。しかも彼はスリムに対して平然と暴力を振るいはじめる。彼女は友人たちの協力を得てなんとか家を飛び出すことに成功するのだが、ミッチは執拗にその後を追いかける。独占欲の強い彼は、スリムと子供をどうしても取り戻したい。もしも取り戻せないなら、その時は殺すまでだ。ミッチはそれを「愛」だと言うのだが……。

 主演はジェニファー・ロペス。妻子に病的な執着心を見せる夫にビリー・キャンベル。監督は『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』のマイケル・アプテッド。日本でも最近話題になっているDV(ドメスティック・バイオレンス=主として夫から妻への家庭内暴力)をテーマにしている作品だが、ヒロインが夫の浮気や暴力に嘆き苦しむ忍従の妻ではなく、正々堂々と夫と対決しようとする現代的な女性になっているのがミソだ。

 だが妻が夫に正面から向き合えば、それでDV問題は解決するのか? この映画はDVの問題が、じつに取り扱い困難な根の深いものであることを教えてくれる。「夫に殴られたら、すぐに警察に行くべきよ!」と言う友人のアドバイスに対し、「娘の父親を警察に逮捕させたくない」と答えるスリム。それにもし警察に訴えたとしても、資産家の夫はすぐに保釈金を払って警察の拘束から逃れてしまうだろう。直接には暴力の被害を受けていない子供を、夫に奪われてしまう可能性もある。親権を争う裁判になれば、優秀な弁護士を雇える夫が圧倒的に有利だ。「夫に殴られたら警察へ」で問題が解決するのは、結局のところ貧乏人だけなのだ。スリムの場合はそれは問題を厄介にするだけだ。

 この映画のサスペンス作品としての見どころは、夫の手から逃れて新しい生活を始めようとするスリムと子供を、夫がいかにして追跡していくかという部分にある。警察やヤクザものを抱き込み、違法な手段を使ってまで妻と子の行方を追いかけるミッチ。どうしても逃げられないところにまでスリムが追い込まれた時、彼女はいったいどうやって子供と自分自身を守るのか?

 スリムにはまとまったお金を寄こす支援者と、信頼できる友人たちがいた。おそらくどちらにも恵まれず、家庭の中で暴力に怯えながら泣いている女性は多いのだろう。結局のところ暴力亭主から逃れるには、真っ先に警察に駈け込むのが最良の策だということか。

(原題:ENOUGH)

2003年1月25日公開予定 みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2002年|1時間55分|アメリカ)
ホームページ:http://www.enough-movie.jp/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:イナフ
サントラCD:イナフ
ノベライズ:イナフ(竹書房文庫)
関連DVD:マイケル・アプテッド監督
関連DVD:ジェニファー・ロペス
関連DVD:ジュリエット・ルイス
関連書籍:イスラエル軍式護身術 クラブマガ入門

ホームページ

ホームページへ