ギャング・オブ・ニューヨーク

2002/11/19 パンテオン(完成披露試写)
いよいよ公開されるマーティン・スコセッシ監督の最新作。
話は小さいが映画を観た満足感は味わえる。by K. Hattori

 本来は今年のお正月映画として昨年暮れに公開されるはずが、例の9・11テロの影響で公開タイミングを逃し、まる1年たってようやく日の目を見たマーティン・スコセッシ監督の大作映画。『ギャング・オブ・ニューヨーク』というタイトルから、『グッドフェローズ』や『カジノ』に通じるマフィア映画を連想したら、これはそれより100年前のニューヨークを舞台にした、愛と葛藤の大メロドラマになっていた。スコセッシの映画の中では『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』が19世紀末のニューヨーク上流社会を舞台にしていたはずだけれど、今回の映画は時代を少しさかのぼり、ニューヨーク下層階級のスラムを舞台にしたエネルギッシュなドラマを作ろうとしている。

 上映時間2時間40分という大作だが、映画としてはポイントが絞り切れていないと思う。どうひいき目に観ても、これは傑作と呼ぶには程遠い内容だ。ドラマの筋立てはシンプルなのに、なぜこうも歯切れが悪いのか。なんだかこの映画は「時代考証」に懲りすぎて、ドラマよりもセットや衣装や風俗描写の方が優先されているように思う。この映画を観ると「なるほど19世紀のNYはこうであったのか!」と目からうろこが落ちるようなシーンも多いのだが、その一方でドラマが何を言わんとしているのかさっぱり不明瞭なのもまた事実。復讐のドラマ? 疑似父子の葛藤? ラブストーリー? あるいはNYの歴史? 南北戦争裏話? アイルランド移民の悲劇? スコセッシは2時間40分という時間の中にこうした諸々の要素を一気にぶち込んでしまうのだが、その中のどれがメインなのか、僕にはよくわからなくない。

 ただしこの映画が凡作や駄作かというと、そういうわけでもない。この映画の圧倒的なボリューム感は、やはりそれだけで特筆すべきこの映画の長所だと思う。上映時間が長いだけでは、このボリュームは味わえない。丁寧に作り込まれたセットや衣装と、正確な時代考証に基づいた世界観があればこそ、この映画には映像としての厚みが出ているのだ。この分厚い映像スペクタクルを観るだけでも、この映画にお金を払う価値はあるかもしれない。特に終盤のスペクタクルは、映画館の大画面で観てこそ価値のあるものだと思う。

 結局この映画の最大の欠点は、こうしたボリューム満点の映像絵巻に匹敵するだけの分厚いドラマが、映画の中で展開できなかったことにある。なぜこうしたことになってしまったのか? この映画はアメリカ人の中にある民族感情や出身国への帰属意識をひとつのテーマにしており、主人公のひとりはアイルランド系、もう一方は“ネイティブス”と自称する建国移民の末裔だ。イタリア系のスコセッシは同じカトリックのアイルランド系に大きく心理的な肩入れをしながらも、どこかで完全にはそれと同化できない距離感を感じていたのではないだろうか……。

(原題:GANGS OF NEW YORK)

2002年12月21日公開予定 丸の内ルーブル他・全国松竹東急系
配給:松竹、日本ヘラルド映画
(2002年|2時間40分|アメリカ)
ホームページ:http://www.gony.jp/

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DVD:ギャング・オブ・ニューヨーク
原作:ギャング・オブ・ニューヨーク
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