歓楽通り

2002/12/13 アミューズピクチャーズ試写室
娼館の中で生まれた本当の恋の物語をパトリス・ルコントが描く。
主演はパトリック・ティムシットとレティシア・カスタ。by K. Hattori

 パトリス・ルコントの新作は、大ヒット作『髪結いの亭主』にも通じるおとぎ話のようなラブストーリー。主演は『ペダル・ドゥース』『パパラッチ』のパトリック・ティムシットと、モデル出身で『ジターノ』にも出演していたレティシア・カスタ。娼婦の息子として娼館で生まれ育った永遠の少年プチ=ルイと、運命の男性と巡り会って身も心も彼に捧げ尽くした天使の心を持つ娼婦マリオンの、結局一度も交差することのなかった愛の交流を描いている。

 子どもの頃から娼館で女たちに囲まれて育ち、大人になっても娼婦たちの世話係をしているプチ=ルイは、子どもの頃から心に決めていることがあった。それは自分にとって運命の女性が現れたら、その人のために自分の人生を捧げつくそうということ。戦争末期のある日、その女性は突然彼の前に現れた。いつも暗い目をして怯えている若い娼婦マリオンに出逢った時、プチ=ルイは自分の人生を彼女に捧げようと決意する。まずは彼女に似合いの男性を見つけなければ! プチ=ルイは心の底から彼女を愛しながらも、自分が彼女の相手になろうなどとは少しも考えないのだ。やがてふたりの前に、ディミトリというハンサムな青年が現れる。これぞ運命の人。だが彼は戦中戦後の動乱の中で、すっかりすさんだ生活が身に付いた男だった……。

 この映画に登場するのは、過ぎ去った過去の美しい思い出だ。想いでは余計な猥雑物がなくなって、すべてがキラキラと輝いている。この映画はパリの街に立つ街娼の思い出話として語られながら、同時にプチ=ルイが自分の経験を語るという構成にもなっている。つまり二重に思い出話になっているのだ。この2つの関係がどうなっているのか、僕にはよくわからないのだけれど、とにかくここに描かれるドラマは思い出であるがゆえに美しく、過ぎ去った過去であるがゆえに悲しい。女たちの安らぎの家だった娼館は消え去っている。プチ=ルイとマリオンの関係も、悲劇的なものに終るであろうことが映画の冒頭から示唆されている。辛い時間の中の、束の間の幸福。その幸福を得たがゆえに、結果としては不幸になってしまった主人公たち。だがそれでも「幸福ならそれでいいじゃないか」とプチ=ルイは言うだろう。

 ヒロインは娼婦だが、これは「不幸な女」「社会的に弱い立場に立たされている女」という記号として作用しているだけだ。この映画には娼館も出てくれば娼婦も大勢出てくるが、それについて歴史的なリサーチをしたりはしていないらしい。ここにあるのはイメージとしての娼館。やってくる男たちのために、心優しい女たちが暖かいベッドを用意してくれる夢の館だ。こんなものはまるで嘘っぱちなのだが、監督もスタッフも出演者たちもそんなこと先刻承知でこの映画を作っている。そこはもう、この世界から永久に消えてしまった場所なのだ。想いでの中だけに生き続ける場所は、常に美しく見える。

(原題:RUE DES PLAISIRS)

2003年春公開予定 シネマライズ
配給:松竹、メディア・スーツ、シネマパリジャン
(2002年|1時間31分|フランス)
ホームページ:http://www.cinemaparisien.com/

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