ボウリング・フォー・コロンバイン

2002/12/13 GAGA試写室
15名の死者を出したコロンバイン高校での銃乱射事件を振り出しに、
現代アメリカの問題点に迫るドキュメンタリー映画。by K. Hattori

 '99年4月20日、コロラド州リトルトンのコロンバイン高校で、男子生徒2名が銃を乱射して多数の死傷者を出す事件が起きた。17歳と18歳の犯人は自宅から持ち出した銃の他に手製の爆弾を所持し、出会い頭に数人の生徒や教師を銃撃した後、逃げ遅れた生徒たちを次々に銃で“処刑”していった。犠牲者は13名。犯人も爆弾を身体に巻き付けたまま自殺した。この映画はそん事件の背景を見つめることで、事件の正体を浮き彫りにしていこうとするドキュメンタリー映画。だが監督のマイケル・ムーアは単なる取材や分析だけで終らせず、自ら積極的に問題を引っかき回し、澱みの中に隠れている真実を暴き出そうとする。こうした取材手法は、観る人に賛否両論を呼びそうだ。

 日本ではこの事件のニュースを聞いて、「アメリカは銃社会だから」と感じた人が多かったと思う。子供のすぐ手に届くところに、平気で実弾入りの銃がおいてある国アメリカ。この映画には、日本人が目を丸くしそうな銃社会の実体が描かれている。スーパーで簡単に銃が買え、実弾も無制限に売ってくれるアメリカ。日本で言えばダイエーやイトーヨーカドーのようなスーパーで、誰でも簡単に銃を買える。狩猟用のライフルはもちろん、警察や軍隊が使う拳銃、さらに自動小銃やサブマシンガンまで売っているのだ。これだけ銃が簡単に手に入るなら、確かに銃による犯罪も増えるだろう。

 だがアメリカでの銃規制はなかなか進まない。市民の武装は建国以来のアメリカの伝統であり、憲法でも保障された国民の権利だと主張する全米ライフル協会(NRA)が、アメリカ最大の政治圧力団体として銃規制法案にストップをかけている。「銃は人を殺さない。人が人を殺すのだ」というのがNRAの主張。映画ではアメリカと同じように大量の銃が流通しているカナダで、銃による犯罪がほとんど起きていないという事実が紹介されている。銃が野放しだから銃犯罪が起きるという面も確かにあるだろう。だが問題はそれだけじゃない。カナダの例を見ると「銃ではなく人が殺すのだ」というNRAの主張も、あながち間違ってはいないように思えてくる。「アメリカは銃社会だから銃による犯罪が起きる」だけでは、正当な分析とは言えないのだ。

 監督のマイケル・ムーアは銃規制に一定の理解を示しつつ、アメリカ社会で市民が互いに抱いている恐怖や憎悪という問題に切り込んでいく。これはかなり面白い視点で、僕がこの映画を見ていて一番面白かったのはここだった。だがこうした問題にはどうしたって結論は出ない。ムーア監督はNRA会長のチャールトン・ヘストン宅に乗り込んで、八つ当たりするくらいが関の山なのだ。

 上映時間2時間のあいだ、いろいろなことを考えさせる映画だと思う。何も結論は出ない。だがアメリカという国について考えるための材料を、これほどたっぷり仕入れられる映画は他にない。

(原題:BOWLING FOR COLUMBINE)

2003年1月25日公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、ミラクルヴォイス
(2002年|2時間00分|カナダ)
ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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