西洋鏡
映画の夜明け

2002/12/19 メディアボックス試写室
中国に初めて映画を持ち込んだ英国人と中国人青年の交流。
新しい技術の前に滅んでいく人々の物語でもある。by K. Hattori

 20世紀初頭、清朝末期の中国北京。写真館で撮影助手として働くリウは、突然写真館にやってきて不思議なことを言う西洋人に出会う。彼は「写真はもう古い。これからは動く写真の時代だ!」と叫び、写真館から放り出されてしまう。写真が動くだって? そんな馬鹿な! だが以前から新しい技術に目のないリウは、レイモンドというこのイギリス人が借りている小さな小屋まで出かけ、実際にその「動く写真」を目にして度肝を抜かれる。暗闇の中で、白いスクリーンに映し出された写真は確かに動いていたのだ! この動く写真に夢中になったリウは写真館の仕事そっちのけでレイモンドのもとに通い詰め、小屋の呼び込みや映写の手伝いをしながら技術を学んでいく……。

 1905年。京劇の役者タンを主演に、中国で初めて劇映画が撮影された。中国の映画史に残るこの実話をもとに、中国で生まれ、アメリカで映画を学んだアン・フー監督が作った映画黎明期の物語。映画には実在した写真館や実在した京劇役者などが登場するが、他はほとんどすべてが創作だという。主人公リウを演じるのは、チアン・ウェン監督の『太陽の少年』に主演していたシア・ユイ。彼のパートナーとなるイギリス人映画興行師レイモンドを演じるのは、先頃亡くなったリチャード・ハリスを父に持ち、数々の映画に出演しているジャレッド・ハリス。劇中にはリュミエール兄弟の「工場の出口」「列車の到着」など、最初期の映画として歴史に残る作品がいくつも引用されており、当時の劇場の様子や観客たちの反応が再現されているのは面白い。

 一昨年の東京国際映画祭にこの作品を持って来日したアン・フー監督は、この作品を「sad happyな映画だと思う」と述べている。映画という新しい技術に出会ったレイモンドは家族に捨てられ、一旗揚げようと訪れた北京からも身ひとつで追い出されてしまう。彼から映画を学んだリウも、自分に信頼と友情を寄せてくれる写真館の主人を裏切り傷つけ、父親からは勘当され、映写中の事故で一生癒えない肉体的なハンディを負ってしまう。こうした不幸は、すべて「映画が好き!」というところから発したものだ。しかしこうした主人公たちの境遇が、そのままこの映画を「sad happy」にしているわけではない。

 この映画に描かれているのは、滅んでいくものに対する郷愁だ。レイモンドはリウに「変わっていく中国をフィルムとして残せ」と言う。300年近く続いた清朝は、間もなく倒れようとしている。中国の伝統風俗は、西欧の影響で刻一刻と姿を消しつつある。美しい風景は消えさり、人々も消えうせ、文化も大きく変化していくだろう。映画の中では「中国の伝統」を京劇で象徴しているのだが、役者のタンが自分たちを滅び行く種族と自覚しているところが多少哀れでもある。この映画は設定を丸ごと借りて、日本版を作れば面白いぞ。

(原題:西洋鏡 Shadow Magic)

2003年1月18日 有楽町スバル座
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:メディアボックス
(2000年|1時間55分|アメリカ、中国)
ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:西洋鏡/映画の夜明け
サントラCD:Shadow Magic(輸入盤)
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