散歩する惑星

2002/12/26 アミューズピクチャーズ試写室
ペールグリーンに染め上げられた摩訶不思議な不条理世界。
僕は観ていて眠たくなってしまった。by K. Hattori

 国際的にも評価の高いスウェーデンのCM監督ロイ・アンダーソンが、4年の歳月をかけて作り上げたシュールでファンタジックな悪夢世界。タイトルだけ見ると『恋する惑星』のもじりのようにも思えるし、「散歩」という言葉はほのぼのとしたメルヘン調の世界観を感じさせもする。だがそうした先入観は、映画が始まった最初の数分で消えてなくなってしまうだろう。

 映画は出し抜けに始まる。日焼けマシンの中から部下に大規模解雇の命令を下す社長と、勤続30年の真面目社員が突然クビになって泣きわめくシーン。会社で訪問先の人物を捜す男は通りがかった男たちに突然殴る蹴るの暴行を受け、奇術師は人体切断に失敗して舞台に上がった客を本当に切断してしまう。こうした一連のエピソードが、どんな意味を持っているのか僕にはよくわからなかったが、すべてに共通しているのは、登場人物たちが一様に醜く老いており、どのエピソードにも出口のない閉塞感が漂っているということだ。

 やがて物語の中心には、逮捕してもらいたくて自分の家具屋に放火した男と、そのふたりの息子が出てくる。長男は元詩人だが精神を病んで病院に収容中。弟はタクシーの運転手で、別れた恋人に未練たらたら。どうやらこの映画はひとつの町を舞台にしているらしく、人々はこの町から抜け出したくて仕方がないらしい。道路が大渋滞しているのがその証拠だ。主人公の家具屋は、自分の店に火を付ければ、逮捕されて町を出られると思った。ところが来たのは警察ではなく保険屋なのだ。人々は先を争って空港に殺到するが、カウンターの前でどうしたわけか立ち往生。死者が蘇って町をうろつき、キリスト像は打ち捨てられる。これはいったい何事が起きているのか?

 この映画はどこにも説明らしい説明がないので、ここに描かれている世界をいかようにでも解釈することが出来る。僕はこれを死者の送られた地獄の風景だと解釈した。住民たちに老人が多いことや、そこからの脱出が許されていないこと、死者が蘇って主人公と会話をすること、人身御供によって維持される社会であること、キリストによる救済が完全に否定されていること……。これはこの世界が死後の世界であり、しかもあまり望ましくない死後の世界、つまり地獄であることを示しているように思うのだ。だがこの地獄は、我々が暮らしている現実の世界に非常によく似ている。だとしたら、我々の暮らす世界もまた地獄の一部分なのかもしれない。

 映画全体が淡いペールグリーンで統一されているのだが、それがいかにも寒くて冷たい印象を観る人に与える。そもそもペールという色は、病人の顔の色や死体の色、あるいは手術室や霊安所といった場所を連想させる。観ていてあまり愉快な映画ではないが、映画全体の張りつめた雰囲気は一見の価値ありかもしれない。

(原題:SANGER FRAN ANDRA VANINGEN)

2003年春公開予定 シネセゾン渋谷(レイト)
配給:ビターズ・エンド
(2000年|1時間38分|スウェーデン、フランス)
ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sanpo/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:散歩する惑星
関連DVD:ロイ・アンダーソン

ホームページ

ホームページへ