レッド・ドラゴン

2003/01/08 UIP試写室
レクター博士を主役にしたトマス・ハリス原作のシリーズ3作目。
グロテスクではあるが、恐さは少なくなっている。by K. Hattori

 『羊たちの沈黙』『ハンニバル』に続く、ハンニバル・レクター・シリーズの3作目。原作はトマス・ハリスの同名小説。『羊たちの沈黙』で描かれたバッファロー・ビル事件以前に起きた、“咬み付き魔”事件を描いている。レクター博士は彼を逮捕したFBI捜査官ウィル・グレアムにアドバイスを与えながら、この事件の捜査と進展に深く関わっていく。製作は『ハンニバル』に続いてディノ&マーサ・デ・ラウレンティス。レクター博士を演じるのはお馴染みアンソニー・ホプキンス。グレアム役にはエドワード・ノートン。監督は『ラッシュ・アワー』シリーズのブレット・ラトナーで、人気シリーズ3作目というプレッシャーにもめげずに水準以上の仕事ぶりを見せていると思う。

 今回の映画に欠点があるとすれば、それは「恐くない」ということだろう。この映画を観る人は、もうハンニバル・レクターを恐がることがない。レクターは極端な美意識と明晰な頭脳を持ったヘンタイ様であって、このシリーズの魅力は彼のいびつなヘンタイぶりにある。彼が人を傷つけ殺そうと、人肉料理を知人たちに振る舞おうと、それにショックを受ける観客はもはやひとりもいないのだ。レクター博士が捜査官に与えるアドバイスは常に的確であり、そのアドバイスを正しく理解した捜査官は間違いなく犯人を逮捕できる。そんなこともあってか、この映画ではミステリー映画の「謎解き」部分を最初から放棄している。観客は最初から犯人を知っているし、犯人と被害者を結びつける手がかりも、主人公グレアムより先に知ることができる。

 結局この映画で描かれるのは、モンスターになってしまった男たちの悲しみなのだ。極端な美意識が高じて人食い殺人鬼になったレクターは、自分自身を理解してくれる人間が現れるのを牢獄の中で待ち続けている。犯人の心理分析をするグレアムは、時として犯人自身に同化してしまう自らの能力を呪うことがある。そして今回の犯人“咬み付き魔”は、幼少時に植え付けられた巨大なコンプレックスを、自分自身が「神」になることでしか克服できない内気な男だ。男たちは自分たちの心の中でのさばり暴れ回る怪物を、何とかして飼い慣らし克服しようともがく。レクターは極度に洗練された美意識の中に怪物を封じ込める。グレアムは自分自身を「家庭」の中に縛り付けることで、血なまぐさい犯罪捜査の世界から逃走しようとする。そして“咬み付き魔”は自分自身が神だという誇大妄想の中で、怪物を飼い慣らそうと試みる。

 今回音楽を担当したのはダニー・エルフマン。僕は以前にも彼の音楽の流れる中で、同じようにもがき苦しむモンスターたちを観た。それは『バットマン・リターンズ』に登場したペンギンやキャットウーマンだ。おそらく今回の映画で最も観客の胸を打つのは、レイフ・ファインズとエミリー・ワトソンのぎこちないラブシーンだと思う。悲しい映画だなぁ。

(原題:RED DRAGON)

2003年2月8日公開予定 日比谷スカラ座1他・全国東宝洋画系
配給:UIP
(2002年|2時間5分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.uipjapan.com/reddragon/

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原作:レッド・ドラゴン |Red Dragon
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