ダークネス

2003/02/04 ヤクルトホール
一家が引っ越してきた家に秘められた40年前の惨劇とは?
キューブリックの『シャイニング』へのオマージュ。by K. Hattori

 スペインではアルモドバル監督の新作を抜いて1位を獲得したというホラー映画。『ネイムレス/無名恐怖』のジャウマ・バラゲロ監督の新作だ。スペイン映画だが、劇中の言葉は英語。出演者もアンナ・パキン、レナ・オリン、イアン・グレン、ジャンカルロ・ジャンニーニなど、ハリウッド映画でも馴染みの国際的な顔ぶれがずらりと揃っている豪華版だ。僕は監督の前作『ネイムレス』をさほど評価していないので、今回の映画の方が面白く観られた。

 この映画はキューブリックの『シャイニング』に強い影響を受けているようだ。登場人物は情緒不安定な父親、彼を深く愛している母、子供はふたりの姉弟。アメリカでの生活に疲れた父親は、精神的な安息を求めて生まれ故郷の町に帰ってくる。引っ越したのは郊外の森の中にある一軒家。だがこの屋敷には何かが取り憑いていた。父親は徐々に精神のバランスを崩し始める。屋敷のあちこちに登場する子供たちの幽霊。屋敷の随所に刻み込まれた血の記憶が、子供たちの脳裏にフラッシュバックする。そもそもこの映画はタイトルからし、て『シャイニング(輝き)』に対抗するように『ダークネス(暗闇)』なのだ。

 『シャイニング』は密閉空間の中に家族3人が閉込められ、その中で一家の大黒柱であるはずの父親が静かに確実に狂っていく(幽霊に取り憑かれる)恐怖を描いていたが、『ダークネス』の恐怖はそれとはちょっと外れたところにあると思う。この映画のテーマは、人間が根元的に持っている闇に対する恐怖。しかし逆に、人間は闇の中でこそ心地よい温もりを感じることができるのも確かだ。闇に怯え、闇に惹かれる人間の本性に基づく葛藤。それが闇から逃れようとするヒロインと、闇に魅入られ闇を崇拝しようとする者たちの対決として描かれる。だが最後に勝利するのは闇なのだ。

 物語の中にはスッキリと腑に落ちない描写やエピソードも多く、それが観るものにモヤモヤとした不快感を抱かせる。例えば写真の中から抜け出した人影や、少年に傷を負わせていたのが誰かという問題だ。しかし何やら得体が知れないこうしたモヤモヤが、少しずつ世界が混沌の度合いを増してくるこの物語に相応しい。闇の中からさまざまな魑魅魍魎が現れるのだ。

 ただしこの映画、序盤のもたつきがどうしても気になる。クッキリと明瞭な世界が少しずつ闇に覆われていくのが面白いのに、この映画の序盤は薄ぼんやりとした霧に全体が覆われたように輪郭不明瞭なのだ。例えばヒロインとボーイフレンドの関係、父母の職業などわかりにくくてしょうがない。終盤にある二重三重のトリッキーなどんでん返しも、カットバックが多用されすぎていて何が何だかよくわからない。よく考えるとわかるけど、こんなシーンで考え込んでいたらスリルもスピード感もなくなってしまうよ。レナ・オリンの好演など見どころも多いだけに、ちょっと残念。

(原題:DARKNESS)

2003年3月上旬公開予定 渋谷東急他・全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2002年|1時間42分|スペイン)
ホームページ:
http://www.darkness-movie.com/

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