ミッシング・ガン

2003/02/20 ソニー・ピクチャーズ試写室
拳銃をなくした警官が自分の記憶をたどって村中を捜索するが……。
チアン・ウェン製作・主演のサスペンス・ミステリー。by K. Hattori

 故郷の村で警官をしているマー・シャンは出勤のための慌ただしい身支度中に、拳銃ケースの中身が空っぽになっていることに気づく。消えたのは実弾が3発装填された拳銃だ。家中をひっくり返しても銃は出てこない。もしやと思い警察のロッカーを見ても、そこは空っぽのままだ。拳銃紛失を上司に報告できないまま、マーはたったひとりで銃の行方を捜し始める。前の晩は妹の結婚式で遅くまで飲んでいたが、自分は誰と飲んで誰と帰宅したのかさえ覚えていない。マーは自分の記憶をたどるため、友人をひとりずつ訪ねて歩く。だがそうこうするうちに、署長や同僚たちにも銃の紛失が知られてしまい……。

 拳銃をなくした警官が自分自身でその捜査にあたるという、黒澤明の『野良犬』みたいな話。しかし『野良犬』の舞台が人の密集した大都会だったのに対し、『ミッシング・ガン』の舞台は田んぼや畑が広がる農村地帯だから、捜査の様子もまったく違ったものになってくる。しかも銃が紛失したのは妹の結婚式から翌朝にかけてだ。招待客やその周辺人物が銃に触れた可能性がある。つまり怪しい人物はすべて顔見知りなのだ。

 拳銃探しの謎解きミステリーとしては、それほど面白い映画ではない。この映画がテーマにしているのは、「拳銃の紛失」という事件によって、主人公マー・サンを取り囲む世界が一変してしまう様子にある。それまで彼の暮らす小さな社会は、彼にとってきわめて居心地のいい快適な世界だった。警察官という仕事は村社会の中で皆から一目置かれる地位だし、マー・サンはそんな警官の中でも表彰を受けるぐらい優秀な男なのだ。ところが一挺の銃が紛失したことで、その世界はマーにとってひどく敵意を持ったものに変貌する。昨日まで親しげに言葉を交わしていた友人や知人は、ひょっとすると自分の銃を奪った犯人かもしれないのだ。そいつは奪った銃で何をやらかす? 誰かを殺すつもりなのか? もしそうだとすれば、殺されるのもきっと自分の知り合いだろう。

 監督・脚本はこれがデビュー作となるルー・チューアン。中国映画では第6世代にあたる30歳の監督だ。オープニングからロック調の音楽を使って観る者をぐいぐい物語に引っ張り込むなど、なかなかのテクニシャン。特に映画前半の密度は高い。中盤以降はミステリーの構成がもたついたようで少しだれるが、終盤はまたぐっとドラマの密度が濃くなってくる。主演は『太陽の少年』や『鬼が来た!』などの監督としても知られるチャン・ウェン。昔の恋人モンの役で『太陽の少年』のニン・チンが出演している。

 「拳銃がアメリカに渡ったなら構わないが、北京に持ち込まれたらどうする!」と怒る警察幹部の姿が面白い。映画が主要テーマにしている地域に根ざした濃厚な人間関係の中に、中央集権的な官僚機構が突き刺さってくる。この台詞ひとつで、世界が大きく広がっている。うまい脚本だ。

(原題:尋槍/The Misssing Gun)

2003年陽春公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2001年|1時間29分|中国、アメリカ)
ホームページ:
http://www.spe.co.jp/movie/worldcinema/missinggun/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:ミッシング・ガン
関連DVD:ルー・チューアン監督
関連DVD:チアン・ウェン
関連DVD:ニン・チン
関連DVD:ウー・ユーチアン

ホームページ

ホームページへ