母と娘

2003/03/06 映画美学校第2試写室
フィリピンフォークの代表曲「アナック」をモチーフにしたメロドラマ。
海外に出稼ぎに行く女たちと家族の物語だ。by K. Hattori

 フィリピンの人気歌手フレディ・アギラーの「ANAK(アナック)」は、'70年代に日本でも杉田二郎や加藤登紀子がカバーして大ヒットしている。父と母に祝福されて生まれてきた子供が、成長してぐれはじめ、両親の手に負えなくなる。やがて家を飛び出した子供は荒んだ生活でぼろぼろになり、両親のもとに戻ってくる。そんな内容の歌詞だった。日本では「アナク/息子よ」というタイトルで歌われていたようだが、今回作られた映画版ではそれが母と娘の物語になっていた。息子より娘の方が、転落していった時の荒み方が激しい。また両親と娘という2対1の関係ではなく、母子家庭における母と娘という1対1の関係にしたことで、ドラマの焦点が明確になっているのだと思う。

 ただしこの映画は母と娘の物語である以前に、フィリピンの主産業とも言える「海外出稼ぎ」の物語になっているのが今日的なのだ。映画はフィリピンの空港から始まる。香港で6年間の住み込み家政婦生活を終え、ようやく故郷フィリピンに戻ってきたジョシー。家族や親戚、友人たちとの再会に大喜びする彼女だが、迎える子供たちの視線はちょっと冷たい。一番下の娘は顔も覚えていないジョシーを母親だとは思えず、少し遠巻きに彼女をながめている。高校生の長男も、母親に言えない秘密を持っている。そして長女は、母親の帰宅に露骨に反発し反抗しているように見えた。ジョシーが留守の間に、家族に一体何があったのだろうか……。

 実際に香港で働いているフィリピンの契約労働者20数名にインタビューし、そこから映画の物語を組み立てたという。個々のエピソードについては、それぞれが実話にもとずく100%本当の話なのだという。監督はロリー・B・キントス。主演はフィリピンの人気女優ヴィルマ・サントスと、若手女優のクラウディン・バレット。地元フィリピンでは、の全人口と同じ数の観客が劇場に詰めかける大ヒットになったそうだ。

 映画を観ているだけでも、この作品が実際の海外出稼ぎ女性たちを丁寧に取材している様子が伝わってくる。主人公のジョシーが、香港の家庭で奴隷のように扱われているエピソードはショッキング。母親という一家の支柱を失った家庭がぐらついている様子や、長期の出稼ぎによって家庭が崩壊する様子、出稼ぎの収入に依存して経済感覚が麻痺してしまう家族たち。この映画はフィリピン社会の一断面を切り取った、優れたドラマ作品だと思う。

 しかしそれと「感動」は別の問題。僕はこの映画に感動できなかったし共感もできなかった。その理由は明らかで、僕はこの映画の背景にある「貧しさ」が実感できずにいるのだ。だから長女がジョシーに言う「子供にはお金より大切なものがある」という台詞にこそ共感してしまう。わざわざ海外まで働きに出なくてもいいのに、と思ってしまうのだ。本当の貧困がどういうものか、僕にはわからない。

(原題:ANAK)

2003年4月公開予定 新宿武蔵野館2・3・4
配給:オフィスサンマルサン、ツイン 宣伝:スキップ
(2000年|2時間|フィリピン)
ホームページ:
http://www.twin2.co.jp/anak/index.html

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DVD:母と娘
関連DVD:ロリー・B・キントス監督
関連DVD:ヴィルマ・サントス
関連書籍:現代フィリピンを知るための60章

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