カクト

2003/03/13 映画美学校第1試写室
俳優の伊勢谷友介が初監督した作品は、少し思いが空回り気味。
エピソードを盛り込みすぎでテーマがぼけてしまった。by K. Hattori

 『ワンダフルライフ』や『金髪の草原』などの作品に出演している若手俳優の伊勢谷友介が、『ワンダフルライフ』『DISTANCE』の是枝裕和監督のプロデュースで作った初監督作品。地方の高校を卒業して東京郊外の大学に通いながら、小口のドラッグの密売や女の子の斡旋などをして小遣い稼ぎをしているリョウが、友人ふたりと過ごす一晩の出来事を描く。たった一晩の間に、出会いがあり、別れがあり、新しい信頼関係が始まり、古い関係が終わり、主人公たちは次の一歩を踏み出していく。主人公はリョウと友人ふたりだが、それ以外にも複数の登場人物たちのエピソードが併走するグランドホテル形式のドラマになっている。

 タイトルの『カクト』とは伊勢谷友介が'97年に結成したアーティストグループの名前だそうで、漢字で書くと「覚人(目覚める人)」「覚都(目覚める都)」になるのだという。辞書には載っていない造語だ。新しい概念について言葉を作るのは自由だが、個人的にはそれを映画のタイトルにはしないほうがいいと思う。タイトルひとつで、観る人の映画に対する印象が決まってしまう面もあるからだ。言葉はイメージの核になる。もっとも外国映画をそのままカタカナ表記で流通させるのが当然の国では、たとえ辞書に乗っている言葉だとしても、そのままでは意味不明の映画タイトルがまかり通っているわけだけれど……。でもやっぱり、造語をタイトルにするという感覚はどうも……。これは僕自身の感覚の問題かもしれないけれど。

 主人公のリョウは学生仲間とも適当に付き合い、同時にやくざとも適当に距離を置いて付き合い、世の中を巧みに泳ぎまわっている青年だ。彼の信条は「世の中はすべてウソだ」というもの。世の中は互いの利害関係で動いている。「お前のために」と言いながら、人は自分の利益を考えながら行動する。すべては偽善だ。本物などどこにもない。世の中がすべてウソッパチだからこそ、彼は自分もその中で本当の自分をさらけ出さずに生きていく。ウソで固めた世の中を、ウソと承知で生きるのが彼の処世術なのだ。

 リョウのような考えにもそれなりの真理はある。だが「世の中に本物はない」と本当に信じて生きられるほど、人間は強くもないのだ。この映画は一晩の間に、リョウが挫折し再生する姿を描いている。その前の数日は複線だ。

 なんとなく言いたいことはわかるような気もするけれど、それが効果的に語られているかというと疑問を持ってしまう映画だと思う。もう少しエピソードを整理した方が、テーマが明確になったのではないだろうか。例えばいつもヘマばかりしている赤い帽子の男の話など、映画の本筋から見れば完全に余計なエピソードだと思う。物語の無駄な枝葉を切り落としていけば、この映画は1時間半ぐらいでまとまったと思うし、その方がリョウの再生というテーマが力強く物語の中から立ち上がったと思う。

2003年初夏公開予定 シネ・アミューズ
配給:ザナドゥー
(2002年|1時間48分|日本)
ホームページ:
http://www.kore-eda.com/misc/kakuto.htm

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