ぼくの伯父さんの休暇

2003/03/25 映画美学校第1試写室
ジャック・タチの監督・脚本・主演作。ユロ氏が登場した初めての映画。
避暑地の海岸でユロ氏がさまざまなトラブルを起こす。by K. Hattori

 ジャック・タチが'53年に監督主演したコメディ映画。タチの映画ではアカデミー賞を受賞した'58年の『ぼくの伯父さん』が有名だが、日本では本作のほうが後から公開されたため続編風のタイトルになっている。原題は『ユロ氏の休暇』という意味だそうで、劇中のユロ氏は誰の伯父さんというわけでもない。

 海辺の小さなホテルで、バカンスを過ごす人々。その中にはオンボロ自動車でやってきたユロ氏の姿もある。取り立てて悪意はないのだが、次々にトラブルを起こすユロ氏。やがて彼は、同じホテルに宿を取る美しい娘マルチーヌに好意を持つのだが……。

 ホテル周辺で起きる小さな出来事を、スケッチ風に綴った構成。全体に起承転結があるわけではなく、ユロ氏はホテルに現れたときと同じようにホテルから去っていく。大きな事件は何も起きない。人間関係には何の変化もない。ユロ氏はマルチーヌと結ばれず、かといって彼女が他の男性と仲良くなるわけでもない。1週間ばかりのバカンスはさまざまな事件をはらみつつ、何事もなかったかのようにそのシーズンを終える。ところがこの映画が、たまらず面白い。最初からクスクス笑い、時に爆笑させられる。

 この映画の面白さは、チャップリンの映画と同質だと思う。ユロ氏を演じているタチはもともとパントマイムの芸人として、ミュージックホールの舞台に立っていたのだという。ユロ氏のキャラクターも、チャップリン演じる放浪紳士チャーリーなど、サイレント映画のキャラクターを参考にしているのではないだろうか。目深にかぶったチロル帽(紛失すると新聞紙で代用)、ほとんど口から離すことのないパイプ、丈の長いレインコート、長身を前かがみにつんのめらせてフワフワと歩く独特の姿、そしてオンボロの自動車。こうした特徴が、この映画におけるユロ氏のトレードマークになっている。

 ユロ氏は確かにトラブルメーカーなのだが、観る者を笑わせるのはユロ氏ではなく、ユロ氏と関わった人々だ。ユロ氏は周囲の人々から笑いを引き出す触媒として、類まれなる活躍ぶりをする。ここではアイスクリームスタンドの水飴や、波打ち際に置かれたペンキ缶、オンボロのカヌー、花火までが、ユロ氏とからむことで並みの役者以上の役者振りを見せてくれるのだ。これはすべてジャック・タチのパントマイム芸の素晴らしさによるものだと思う。

 今からちょうど50年前のバカンス風景が、巧みにスケッチされているのも見もの。休暇で訪れたホテルで電話にかじりつき、仕事の指示を出す父親の姿などは、今の日本でも見られるものかもしれない。バカンスの習慣がない日本人もこの映画を観れば、「なるほどこれがフランスのバカンスというものか」と腑に落ちるはず。細かな風俗の違いはあっても、バカンス風景は今もそれほど変化がないはずです。

(原題:LES VACANCES DE MONSIEUR HULOT)

2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ、テアトル梅田、他
配給:ザジフィルムズ
(1953年|1時間23分|フランス)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/

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