ベアーズ・キス

2003/04/30 GAGA試写室
サーカスの小熊がブランコ乗りの少女と恋に落ちる。
民話の世界を現代によみがえらせている。by K. Hattori

 母を失い独りぼっちになった小熊のミーシャ(モスクワ・オリンピックのマスコットと同じ名前)は、サーカスのブランコ乗りの少女ローラに引き取られてスクスクと成長する。ミーシャは人間に姿を変えられる、不思議な熊だった。やがて共に天涯孤独の身となったふたりは恋に落ちる。森に帰りたいと願うミーシャだったが、ローラは彼と森に行くことができなかった……。

 動物と人間が結婚するという民話や伝説は世界各地にあって、これを「異類婚姻譚」と呼ぶそうだ。ギリシャ神話、グリム童話、中国や日本の昔話にも、同じような話はたくさんある。有名なのは日本の昔話「鶴女房」や、日本各地に残る羽衣伝説。小説なら「南総里見八犬伝」といったところか。中国の小説「聊斎志異」の中には、幽霊(死んだ若い女)が身ごもる話があった。映画では『狼の血族』だろうか。かつて人間たちは、人間と自然界の距離を今よりずっと身近に感じていた。人間や動物や妖怪は、人の住む世界と自然と霊界の間を自由に行ったり来たりして、互いに交流を持つことができた。でもいつからか人間と自然界の間には、飛び越えられない深い断絶が生まれてしまった。

 この映画はミーシャとローラの関係を通して、今では失われてしまった人間と自然との距離感を取りもどそうとする。人間と自然を遠ざけているのは、現代の人間が暮らしている社会の仕組みや考え方だ。それを一度解きほぐすために、この映画ではローラをサーカス育ちの孤児という設定にしてある。サーカスは近代社会の中に生き延びる中世的な異空間であり、孤児は「家族」という人間にとってもっとも基本的な社会構成からも阻害された存在だ。ミーシャとローラは現代のヨーロッパ各地を旅して回るが、サーカスという設定が小さなシェルターのような役目をして、ふたりの周囲に独特の世界を作り上げている。

 政策・脚本・監督は『コーカサスの虜』のセルゲイ・ホドロフ。ローラを演じているのは『ショー・ミー・ラブ』のレベッカ・リリエベリ。人間に返信したミーシャを演じているのは、監督の息子であり、『コーカサスの虜』『ロシアン・ブラザー』『イースト/ウェスト 遥かなる祖国』などに出演しているセルゲイ・ホドロフJr.。監督はロシア人で物語の舞台に「英語圏」は含まれていないが、映画の中で使われている言葉は原則としてすべて英語で統一されている。脚本協力として『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック監督の名がクレジットされている。

 映画冒頭に森の中を歩く少女と熊のアニメーションが挿入され、劇中の場面転換ごとに地名をあらわす字幕と短いアニメーションが現れる。これが物語のアクセントになって、映画を現実とファンタジーの中間に固定することに成功しているように思う。ミーシャとローラが森に入っていくラストは、一種のハッピーエンドだと思う。

(原題:BEAR'S KISS)

2003年夏公開予定 シネセゾン渋谷
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ山、スキップ
(2002年|1時間38分|カナダ)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:ベアーズ・キス
関連DVD:コーカサスの虜(セルゲイ・ボドロフ監督)
関連DVD:レベッカ・リリエベリ
関連DVD:セルゲイ・ボドロフJr.

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