クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード

2003/05/07 日劇2
映画版『クレヨンしんちゃん』シリーズにしてはパワーダウン。
もっと焼肉というテーマにこだわればいいのになぁ。by K. Hattori

 映画版『クレヨンしんちゃん』の第11弾。前2作で「大人も感動できる子供向けアニメ」という評価を受けた人気シリーズだが、明確に「大人の観客」を視野に入れていたこれまでの路線を一度ご破算にして、原点であるドタバタコメディ路線に戻そうとしたようだ。ただし6作目の『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』以来このシリーズを毎回楽しみにしていた僕としては、今回いささか物足りない思いがしたのも事実。ドタバタコメディに進むにしても、もう少しドラマの芯がしっかりしていた方がいいと思うけどなぁ……。

 今回一番残念だったのは、脚本に力がないことだ。タイトルにある「焼肉」に、もっと徹底してこだわってもよかったんじゃないだろうか。野原一家は「焼肉を食べるために家に戻る!」ことを目指して大活躍するわけだが、幼稚園児や赤ん坊の命を危険にさらしてまで焼肉にこだわる理由がさっぱりわからない。焼肉が一家団欒の平和な食卓を象徴しているのはわかる。しかし映画版『クレヨンしんちゃん』の場合、野原一家が力をあわせて敵と戦うことで家族の強い結束が生まれ、どんな一家団欒をも凌駕する「家族の固い絆」が生まれてしまうのが常ではないか。野原一家の家族としての結束のピークは、この映画の場合クライマックスの熱海での再集合とその後の戦いの中にあるのであって、帰宅した後に焼肉を食べるという行動はそれに比べるとあまりにも小さな出来事に過ぎない。観客にとってこの映画は、熱海で終わっているのです。

 荒唐無稽なドラマの中で日常のディテールを大切にしてきたこのシリーズだが、ロクな交通手段を持たぬまま、野原一家が春日部から熱海に移動するというのは無理があると思う。直線距離でも100キロぐらいあるぞ。なぜ舞台が熱海でなければならないのか。もし舞台を熱海にしたいのであれば、野原一家が家族旅行で伊豆や箱根に来ていたという設定にするなど、移動距離を「そんなバカな!」と思わせずに済ませる工夫はいくらでも考えられたように思う。

 クライマックスもいまひとつ、ドラマが小さくまとまってしまっているのが気になる。自転車アクションをやるなら、しんちゃんの自転車が舗装道路を離れて山道に突っ込んでいくぐらいの勢いを見せてくれ。ミュージカルシーンを作るなら、熱唱する敵のボスの周辺にセクシーなバックダンサーを数十人は踊り狂わせてくれ。観客が「この程度まではやるだろう」と予想する線を、ダイナミックに突き抜けていくパワーがほしいのだ。『ブタのヒヅメ大作戦』から『嵐を呼ぶジャングル』までのアクションを主体にした作品には、そうしたとてつもないパワーがあったではないか。
 
 このパワーダウンが、監督交代直後という一過性のものであることを願いたい。次回作では、野原一家のさらなる大活躍を期待している。水島努監督がんばれ!

2003年4月19日公開 日劇2他・全国東宝系
配給:東宝
(2003年|1時間28分|日本)
ホームページ:
http://www.shinchan-movie.com/

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