プレイタイム
(新世紀修復版)70mm版特別上映

2003/05/23 渋谷パンテオン
ジャック・タチ演じるユロ氏が70mmの巨大スクリーンで活躍。
この日1日だけ70mmの特別上映が実現。by K. Hattori

 ジャック・タチ監督自作自演の「ユロ氏もの」として作られた70mmの超大作が、渋谷パンテオンの大スクリーンで70mm上映された。ただし前回試写室で観たものに比べて、画像がどの程度違っているのかはよくわからない。試写室は完全に真っ暗な中で小ぶりのスクリーンに映像を投射するため、映画館に比べると映像は明るくてヌケがいいのだ。35mmのプリントをパンテオンのスクリーンで上映したものと、今回の上映を比較すれば違いは歴然なのかもしれないけれど、これではあまり比較にならない。ただし今回の映画、「これが70mmだ!」と期待してみていたせいか、ハイライト部分のつやが一段グレードアップしていたような印象もある。具体定期には映画導入部にある、空港のリノリウムの床のテカテカした質感などだ。もっともこれは、映像版のプラシボー(偽薬)効果かもしれない。観る側がその気になっているから、映像がそれらしく見えるのかも。

 『ぼくの伯父さんの休暇』や続編『ぼくの伯父さん』はユロ氏ことジャック・タチの個人芸をベースにしたコメディ映画であり、それと同じものを『プレイタイム』に期待した観客が失望するのはよくわかる。『プレイタイム』のユロ氏は物語世界を漂流する狂言回しであり、どちらかというと目立たない存在だ。この映画では巨大なオープンセットを作ってパリの街全体を「ジャック・タチ的な世界」に見立て、そこに登場する人々を「ユロ氏の分身」にしているのだ。大勢のユロ氏が登場することで、オリジナルのユロ氏は匿名性を増していく。ユロ氏は唯一無二のキャラクターから、映画に登場する大勢の人々の中のひとりへと埋没していく。これは明らかに、タチの狙っている効果だ。

 映画前半は鉄とガラスとコンクリートの無機質で没個性的な世界の中で、ユロ氏が商談のためジファール氏と会おうとする話。ところが仕事に忙しいジファール氏とユロ氏は、迷宮のようなビル街の中でなかなか出会うことができない。この「出会えない」というのが、映画前半の大きなモチーフになっている。ユロ氏はジファール氏に出会えず、声をかけてきた戦友ともすれ違い、この映画のヒロインであるバーバラとも幾度かすれ違うだけだ。ところが夜になってユロ氏がジファール氏と偶然に出会ったところから、今度は「偶然の出会い」がこの映画の主要モチーフになる。舞台は開店したばかりのレストランに移り、従業員、内装工事の職人、建築家、予約客、通りがかりの酔っ払い、バンドマン、そしてユロ氏などが、ごちゃごちゃに入り乱れながら開店直後のレストランを破壊していく。

 この2部構成は徹底していて、前半部ではBGMをほとんど使わず、画面を機械のノイズや街の騒音などが覆っている。逆に後半部では映画全体を音楽が包み込み、最後は街全体がメリーゴーランドになるフィナーレを迎える。後半のどんちゃん騒ぎの楽しさは格別だ。

(原題:Play Time)

2003年5月23日70mm版特別上映 渋谷パンテオン
2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ
配給:ザジフィルムズ
(1967年|2時間5分|フランス)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/tati/

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