キスはご自由に

2003/06/03 映画美学校第2試写室
バカンス地で見栄を張りあう家族のドタバタを描くコメディ。
バカンスの習慣はうらやましいがフランス人も大変だ。by K. Hattori

 フランスの夏はバカンスの季節だ。お金持ちも貧乏人も、老いも若きも、海や山に出かけてまとまった休暇を過ごす。「お金がないから」とか「仕事が忙しいから」といった言い訳は通用しない。とにかく夏はバカンス!なのだ。バカンスはフランス人にとって国民的な行事なので、それを巡っていろいろな映画も作られている。ジャック・タチの『ぼくの伯父さんの休暇』はバカンス映画の古典と言っていいだろうし、最近の映画ではサイコ・サスペンス映画『ハリー、見知らぬ友人』も印象に残る。バカンスは日常と非日常の境界にある不思議な祝祭空間。そこではいろいろな出会いがあり、事件が起きる。

 ベルトランとエリザベートの夫婦と、ジェロームとヴェロニク夫妻は、もう何年も家族ぐるみの付き合いをしている友人同士。だがエリザベートとヴェロニクは、毎年バカンス時期になると男たちのうんざりするような「女の戦い」を繰り広げている。金持ちのエリザベートは庶民的な生活をしているヴェロニクの服装を皮肉り、ヴェロニクは馬鹿にされまいと必死に見栄を張る。そんな戦いは、特に今年その過激さを増していた。ジェロームが会社をリストラされて、家庭経済は火の車。だがヴェロニクはバカンス中止などという「敵前逃亡」を許さない。かくしてライバル同士は再び同じ海辺のバカンス地に出かけるのだが……。

 映画導入部では「経済状態に格差のある2つの家族の対立」がドラマの主要モチーフになるのかと思わせるのだが、物語の舞台がバカンス地に到着した途端に登場人物が一気に増える。これはバカンス地という非日常の空間に、いろいろな問題を抱えた人間たちをごちゃごちゃにぶち込んだ集団ドラマなのだ。バカンス地でのドラマと平行して、エリザベートの娘エミリーが父の部下の男とシカゴ旅行に出かける話や、夫ベルトランがパリに戻って愛人といちゃつく話などが語られる。映画は前半と後半に分かれ、後半では前半の登場人物たちが全員ベルトランの屋敷に集まってガーデンパーティー。ここで前半に醸造された幾つものドラマが、さらなる段階へと発展していく。

 登場する俳優たちがじつに豪華。エリザベート役にはシャーロット・ランプリング。その夫ベルトランにジャック・デュトロン。ヴェロニク役にはカリン・ヴィアール。避暑地で出会う嫉妬深い亭主に監督のミシェル・ブラン。その妻ルルにキャロル・ブーケ。ホテルで女漁りに精を出すマキシム役にはヴァンサン・エルバス。エミリー役にはルー・ドワイヨン。子連れバカンスのジュリーにはクロチルド・クロー。他にもフランス映画好きには見覚えのある顔が多数出演している。
 
 意地悪で嫌味なオバサンに見えたランプリングが、映画の後半でどんどん素敵になっていくのは見もの。この映画に登場する人たちは全員がどこか大きな人格的欠点を抱えているのだが、その欠点こそが各人物の魅力になっている。

(原題:Embrassez qui vous voudrez)

6月18日上映予定 第11回フランス映画祭横浜2003
配給:日本公開未定
(2001年|1時間43分|フランス、イギリス、イタリア)
ホームページ:
http://www.unifrance.org/

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