戦場に咲く花

2003/06/20 TCC試写室
戦争末期に満州の駅で起きた日本人助役殺害事件の真相は……。
緒形直人が好演しているが脚本がちょっと弱い。by K. Hattori

 日本の敗戦まであと1年足らずとなっていた1944年秋、南満州鉄道の小さな駅で助役をしていた日本軍兵士・菊地浩太郎が、風呂場で死体になって発見された。鋭利な刃物で刺されたことによる失血死。いったい誰が菊池を殺したのか? 連絡を受けて現場に来た憲兵隊長の平岡は、駅長以下4人を徹底的に取り調べ、菊地殺害の真相に迫ろうとする。駅長たちは「自分たちは殺していない」と言い張るのだが……。

 戦争末期とはいえ、当時の満州は日本の占領地。「助役」とはいえ実質的に駅のナンバーワンだったのは日本兵の菊地であり、中国人の駅長や家族たちはそれより一段も二段も下に立たされているというねじれた現実がある。菊地は鉄道運行についてはまったくの素人だが、そのじつ駅の中では他の中国人を奴隷のように使役できる絶対権力者なのだ。オリンピックの馬術競技で入賞した「国民的英雄」の菊池は、戦場で脚を負傷したものの本国への帰還は認められない。軍部は彼を駅の助役という名誉職につけて、実質は飼い殺し状態に置いている。駅は戦場からも遠くて平和そのもの。しかし菊地はこの地で、日本軍から放棄され、中国人からは疎まれるという宙ぶらりんの状態で放置されていたのだ。
 
 日本兵・菊地を演じるのは緒形直人。憲兵隊長の平岡を演じるのは平田満。駅長を演じているのはワン・シュエチー。監督はこれが長編デビュー作となるジャン・チンミン。彼は日本映画学校で監督術を学んだという親日家で、原作の短編小説からストーリーの骨格だけを借り、日本人の会話や心理までを細かく肉付けしていったのだという。その成果が菊地浩太郎という複雑なキャラクターを、血の通った生々しい人間にしているのだろう。故郷を遠く離れた中国にたったひとり取り残され、望郷の念と肉親への情愛が強まるあまり、周囲の中国人たちに感情的に当り散らす孤独で寂しい弱い男。帝国軍人としてのプライドや、国民の英雄としての自尊心が、生活の中で少しずつ磨り減っていく様子を、緒形直人が繊細に演じていると思う。
 
 これに比べると、平田満演じる平岡はつまらないキャラクターだ。彼はこの物語の語り手でもあるのだが、彼が本当のところ菊地をどう思っていたのか、中国や中国人に対してどんな思いを抱いていたのか、戦争の行く末や日本の未来についてどんな目算を持っていたのかなどが見えてくると、平岡という人物がもう少し複雑な男になったと思う。駅長と家族との関係についてはコミカルな面を強調して、菊地の抱える深刻な内面的葛藤とのコントラストを出せると面白かっただろう。
 
 脚本の構成としては、菊地が自殺したのではないかという可能性をもっと前に提示した方がいいと思う。その方が「中国人が殺した」ということに平岡がこだわり続ける不条理が強調され、中国人たちが追い詰められていく終盤のサスペンスが生きてきたと思う。

(原題:葵花劫 Sunflower)

7月19日公開予定 新宿ジョイシネマ3(レイト)
配給:ポニーキャニオン 宣伝:ニューウェーブ
(2000年|1時間26分|中国、日本)
ホームページ:
http://www.ponycanyon.co.jp/

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