しあわせな孤独

2003/07/09 メディアボックス試写室
交通事故をきっかけに恋人や夫婦の生活が大きく変貌していく。
切ない大人の恋心を描ききるデンマーク映画。by K. Hattori

 小さなレストランでコックをしているセシリと大学で地理を専攻するヨアヒムは、同じアパートで暮らす恋人同士。だが婚約して結婚間近という時に、ヨアヒムが突然交通事故で重傷を負ってしまう。なんとか一命は取り留めたものの、頚椎損傷で首から下が完全に麻痺。加害者はヨアヒムが運び込まれた病院に勤める医師ニルスの妻マリーだった。運転中のちょっとした不注意が、大きな悲劇を生み出してしまったのだ。彼女の責任が問われることはなかったが、彼女はヨアヒムやセシリの運命を自分が狂わせてしまったことに心を痛める。意識を取り戻したヨアヒムは自分の運命を呪ってセシリを拒絶。傷つき孤立するセシリを慰めるために、ニルスは優しく声をかけるのだが……。

 「ドグマ」のルールに(ほぼ)従って撮影された小さくて地味な作品ながら、デンマークで大ヒットしたという大人の恋愛映画だ。結婚間近の幸せなカップルと、3人の子供を抱える医師夫婦。もともと接点のない2つのカップルは、ほんの一瞬のうちに起きた不幸な交通事故で接触を持ち、そこから運命が大きく回転して行く。

 意識不明の恋人を気づかうセシリの姿と、被害者の容態を心配しながらも、娘の誕生パーティをしているニルスとマリー夫妻の姿を対比させる導入部。ここで観客は幸せの絶頂から一気に不幸に突き落とされたセシリに同情し、不注意運転で他人を轢いておきながら何の責任も問われず家庭の幸福を満喫しようとするニルスとマリーたちに反感を覚える。病院は不安で怯えるセシリに対してあまりにも冷淡。ニルスは自分の家庭さえ守れればいいという身勝手ぶり。だがこのふたりが、どういうわけか恋に落ちてしまう。普通に考えればありえない関係が、不思議な運命のいたずらで成立してしまう不思議と皮肉。

 恋人のいるセシリと妻子のいるニルスの禁じられた恋の深まりを、映画は丁寧に、説得力を持って描写していく。子供とスーパーに買い物に出た時、携帯電話で「君に本当に恋してしまった」と告白するニルスの切ない気持ち。ニルスとの家具選びで無邪気に笑い転げるセシリ。このふたりは身勝手だ。無邪気な恋心は、時として周囲に強い毒を撒き散らす。だがその毒が強ければ強いほど、恋の味は黄金色の蜜のように甘いものになる。

 この映画を観ていて、僕は全員の気持ちが理解できるような気がした。おそらく自分が同じような立場に立たされれば、自分もまた同じように行動してしまうであろうという気持ちになった。セシリやニルスの気持ちもわかるし、マリーの気持ちもわかる。ベッドの上で周囲に怒鳴り散らすヨアヒムの気持ちもわかるし、父親の浮気を知って反発するニルスの娘の気持ちもわかる。物語の筋立ては良質のメロドラマだが、この映画はそこから人間の心理を深く深く掘り下げていくことによって、運命と戦おうとする人間の悲劇を描くことに成功している。

(原題:Elsker dig for evigt)

秋公開予定 ル・シネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
(2003年|1時間54分|デンマーク)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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