偶然にも最悪な少年

2003/08/08 東映第1試写室
自殺した姉の死体を東京から福岡まで運ぶ少年と仲間たち。
軽やかさとスピード感が映画のヤバさを中和する。by K. Hattori

 脚本段階で映倫から「R-15(15歳未満は入場禁止)」の指定を受けたものの、映画完成後の試写で区分が「PG-12(12歳未満は保護者同伴)」に改められたという話題作。原作・監督はCMディレクターのグ・スーヨン。主演は『リリイ・シュシュのすべて』の市原隼人、歌手でドラマ版「私立探偵濱マイク」にも出演していた中島美嘉、そして中小規模の映画で数々の主演をこなしている池内博之。そもそもこの映画がR-15になったのは、登場するモチーフがあまりにもヤバヤバだったからだろう。不登校、イジメ、離婚、万引き、恐喝、暴行、近親相姦、民族差別、強盗、傷害、自殺、ドラッグ、その他もろもろ……。

 こうしたモチーフはその中のひとつを取り上げて掘り下げても、それだけで1本の映画が作れるだけの大きなテーマになり得るものだ。ところがこの映画ではそれらを全部まとめて、無造作に映画の中に突っ込んでしまう。なんという乱暴さ。ところがこうすることで、各素材の持つ危険なニオイが中和しあって、映画全体の中でどれかひとつがでしゃばるということがなくなってしまうのだ。かなり異様な映画ではあるけれど、これはこれでひとつの新しい青春映画として成立していると思うのだ。

 この映画の特徴は、対象の表層だけを徹底的に描いていくことだと思う。主人公たちが映画の画面に登場しないところでどんな生活をしているのかは、ほとんどまったく語られない。姉の死体を韓国まで運ぼうとするカネシロヒデノリについては、彼が少年時代からイジメられっ子であったことや、両親が離婚していること、家族はそれ以来音信不通のまま何年もたっていたことなどが回想シーンとして挿入されるのだが、それでも彼がなぜ学校に行かなくなってしまったのか、何をして収入を得ているのか、本当のところ彼の心のうちはどうなっているのかについて、映画はまったく何も語ろうとしないのだ。これは一緒に旅をする佐々木由美やタローに至るとさらに徹底している。この人たちは、普段何をしているのだろうか。とにかくまったくわからない。

 こうした個人の生活履歴を、さまざまな手がかりを映画に散りばめることで立体的に浮き彫りにしていこうとするのが、今までの映画の常套手段だった。この映画はそうした映画や脚本作りの常識を無視して、人間の言葉や行動やファッションといった目に見える現象の集積としての人間を描き出そうとする。これまでの映画が彫像のように人間を描いているのに対して、この映画はモザイクのように人間を描き出す。

 スピード感と軽さが身上の映画で、すべてがあっという間に過ぎ去っていく。事件と事件や原因と結果の間にあるべき理論的な結びつきより、その場を支配しているノリを優先して物語がずんずん先に進んでいく感じだ。何にせよ、この監督の次の映画を観てみたいと思わせる作品であることは間違いない。

9月13日公開予定 丸の内東映他、全国東映系ロードショー
配給:東映
(2003年|1時間53分|日本)
ホームページ:
http://www.saiaku.jp/

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