カタルシス

2003/08/22 TCC試写室
連続幼女殺人事件の犯人となった少年と家族の物語。
抽象的な舞台設定の狙いはわかるけれど……。by K. Hattori

 TVドキュメンタリー出身で、映画監督デビュー作『青の塔』が公開待機中の坂口香津美監督が、6年前に神戸で起きた連続児童殺傷事件に触発されて作ったというドラマ。連続殺人という大罪を犯しながら、わずか数年で少年院から出てくる犯人の少年。それを受け入れるのは、結局のところ家族しかいない。自分たちの知らぬところで得体の知れぬモンスターとなってしまった少年を、家族はどう受け入れていくのか……。

 映画のモデルになったのは神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)だと思うが、この映画ではその「事件」の詳細については何も語られない。なぜ事件が起きたのか、具体的にどんな事件だったのかは、映画を観る観客が想像するしかない。

 物語は犯人の少年が少年院を退院し、家族と共に母親の故郷である島に移り住むところから始まる。そこで親戚の男が用意していたのは、海辺にある小さな小屋だ。この映画は砂浜に建てられた小屋という抽象的な空間を舞台にして、血縁関係を媒介にした日本的風土と、その中で小さく萎縮していく家族の関係を寓話的に描いている。浜辺の小屋はドラマを展開するための舞台装置。そこは人間の生きる世界と死の世界の境界にある、特殊な領域として機能しているようだ。少年を抱えた家族は、この境界の世界から出ることができない。

 少年の犯罪が具体的に描かれていないことも含め、この映画は具体的な描写を避けて登場人物たちを記号化している部分が多い。画面の暗さや明るさ、台詞のやりとり、エピソードの組み立てなど、すべてがきちんと計算されている。しかしその計算が先に立ってしまい、かえって個々のシーンの貧弱さが目に付くことも多い。エピソードの構成がキレイすぎて、ストーリーとしては意外性に乏しくなってしまうのだ。すべては期待されるべき結末へとすんなり落ち付いてしまう。決められた段取りの上で人が動くだけで、個々のシーンから登場人物たちの生々しい感情が伝わってくることがない。

 おそらくこれは映画を作る側がテーマを掘り下げることを途中で打ち切ってしまい、「映画をきれいにまとめよう」と考え始めたことから生じたことのように思う。映画の最初と最後を長女の視点で描くだけでなく、中間部分も彼女の視点で描ききることができれば、この映画のテーマはもっと深く描けたと思うし、最後に彼女が海辺から生還する姿がより感動的に描けたのではないだろうか。

 少年の両親は家族で抱えた罪を精算するため、ある選択へと追い込まれていく。しかしこれだけの舞台装置と段取りがありながら、このシーンに思ったほどのインパクトはない。これは映画の序盤と中盤で、少年の家族も含めた「日本の家族」を描き損ねている部分があるのではないだろうか。映画のあちこちにその仕掛けの骨組みは見えるのだが、やはり映画全体の肉付きが貧相なのだ。映画にもう少しボリュームがほしかった。

11月初旬公開予定 新宿武蔵野館(レイト)
配給:アルゴ・ピクチャーズ
(2002年|1時間53分|日本)
ホームページ:
http://www.supersaurus.jp/catharsis.html

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