デコトラの鷲(シュウ)
〜祭ばやし〜

2003/09/03 東映第1試写室
哀川翔主演で現代版『トラック野郎』を作るはずが『男はつらいよ』に。
浅草を舞台にしたベタベタの人情コメディ映画。by K. Hattori

 1970年代に東映で製作された人気シリーズ『トラック野郎』の現代版として企画された、哀川翔主演の人情コメディ映画。オリジナル版の主演は菅原文太と“愛川”欽也だったから、今回の映画は“アイカワ”つながりになるわけだ。ただし哀川翔演じる主人公は、菅原文太を参考にしたらしい。(その菅原文太は2001年に息子の菅原加織を主演にして、『デコトラ外伝/男人生夢一路』という現代版『トラック野郎』を製作している。同じ年の10月に事故死した菅原加織にとって、おそらく唯一の主演映画だと思う。)

 デコトラの運転手をしている飛田鷲一郎が、三社祭の時期に故郷浅草に戻ってきた。待っているのは幼馴染の気のいい仲間たちと最愛の妹、そして自分たち兄妹を置き去りにした父親に代わって育ての親となってくれたオフクロさんだ。だが鷲一郎が留守をしているうちに、実家の居候になっていたアメリカ人の娘ルーシー・ヘイワード。彼女は幼い頃生き別れになった父に亡くなった母の形見を渡すため、わざわざ日本にやって来たのだという。鷲一郎は彼女に一目惚れし、何とか彼女のために一肌脱ごうとするのだが……。

 哀川翔はこれが主演99作目の映画だそうで、次の記念すべき100作目は三池崇史監督と宮藤官九郎脚本の『ゼブラーマン』。この映画を一言で表せば、その100作目に向けた「嵐の前の静けさ」ということになりそうだ。なにしろこの映画、全体にひどく野暮ったい。人情コメディには軽さが不可欠だと思うのだが、なんだかひどくベタベタと重いのだ。実家は浅草の食堂で、育ての親であるオフクロさんは義理の母、主人公は唯一血のつながった妹が可愛くって仕方がないという設定など、まるっきり寅さんシリーズのパクリではないか。主人公がマドンナに勝手に一目ぼれして、そこから物語が生まれてくるという筋立ても寅さんシリーズをなぞっている。

 映画は一応浅草でロケしていて、それがこの映画の一番大きな魅力になっている。浅草を走り回る人力車は最近の浅草の新名物だし、主人公の実家の食堂も、友人たちのたむろする町の風景も、おそらく実際に浅草で撮影されたものに違いない。残念なのは浅草のランドスケープである雷門の大提灯が、撮影時にちょうど修理で取り払われていたこと。雷門の風景が出てきても、何か画竜点睛を欠くのはそのためだ。

 香月秀之監督の演出はまるで投げやりで、前作『KUMISO』のような面白さはまったく感じられない。この企画に監督自身が、あまり乗り気でなかったのかもしれない。低予算で撮影日程がほとんど取れなかったであろうことが、画面のあちこちから透けて見えるのがちょっと寒々しい。哀川翔が映画をすべて引っ張っているのだが、彼の芝居を受ける相手として、ルーシー役のこずえ鈴は力不足だった。ルー大柴も噛み合ってないような……。笑っちゃうシーンも幾つかあるんだけどね。

10月11日公開予定 シネマサンシャイン
配給:「デコトラの鷲」フィルムパートナーズ
(2003年|1時間25分|日本)
ホームページ:
http://mucchama.hp.infoseek.co.jp/dekosyu_osirase.htm

DVD:デコトラの鷲〜祭ばやし〜
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