密愛
Ardor

2003/09/09 映画美学校第2試写室
監督は『ナヌムの家』のピョン・ヨンジュ。主演は『シュリ』のキム・ユンジン。
重く澱んだ物語はどんよりとした後味を残す。by K. Hattori

 ドキュメンタリー映画『ナヌムの家』3部作の監督として日本でも知られているピョン・ヨンジュが、『シュリ』や『RUSH!』の主演女優キム・ユンジンを主演に招いた商用劇映画デビュー作。夫の浮気発覚で心に深い傷を負った主婦が、ハンサムな医師との恋愛ゲームを通して自分自身を取り戻していく様子を描く。

 大学卒業と同時に結婚し、夫と娘ひとりの家庭で何不自由なく幸せに暮らしていたフミン。だがあるクリスマスの夜、夫の部下だと名乗る若い女性が家を訪ねてきて、フミンの夫と長い間不倫関係にあったことを暴露する。自分が信じていた生活が、足もとから解けて流れていくような感覚を味わうフミン。一家は生活を立て直すため家族揃って田園風景の残る小さな村に引越すが、半年たってもフミンの傷ついた心は癒されることがなく、ボンヤリと魂の抜け殻のような日々を送るばかりだった。だがそんな彼女の前に、村でも変わり者と評されるハンサムな医師インギュが現れる。彼は生きる目的を見失っているフミンに、あるゲームを提案する。夏が終わるまでの数ヶ月間、恋人同士として過ごそう。どちらかが相手に「愛している」と言ったら、そこでゲームは終わりだ……。

 相手を愛してはいけない恋愛ゲームが、あっという間に本当の恋愛になってしまうというありきたりな物語。医師がヒロインにゲームを持ちかけることで始まる物語だが、彼がなぜ彼女をゲームの相手に誘ったのか、なぜ彼女がゲームを受け入れると考えたのかがよくわからない。彼女は医師に過去の出来事を話していないのだから、医師が彼女の心の弱みに付け込んだというわけでもないだろう。彼はなぜ彼女の欲しているものがわかったのか。それは彼が医者という立場で、日々多くの人と接しているからなのか。

 おそらく医師のインギュも、何らかの心の傷を抱えている男なのだ。彼は自分の抱えている傷と似た気配を、フミンから瞬時にして感じ取ったに違いない。しかしそうした事情が映画からうまく伝わってこないので、インギュの誘いは「ヘンタイ医師」「セクハラ医師」のように見えてしまいかねない。フミンが事件以来夫とはセックスレスになっていたことや、夫を拒絶しながらも彼女が誰かに抱きしめられたいと願っていたことも、映画の序盤でもう少し匂わせておいてほしいところだ。このあたりは理屈ではわかるけれど、映画は感覚的なものだから、やはり事前に観客の気持ちに違和感が生じないような段取りが必要だと思う。

 インギュと関係を持ってフミンが笑顔を取り戻してから、物語はようやく滑らかに動いていくのだが、それまでが重苦しすぎるし長すぎる。映画序盤で味わったこの重苦しさが、結局は映画の最後まで払拭できなかったように思う。ベッドシーンをもっと激しく濃厚にすると、主人公たちが生活を捨て去る映画後半に説得力が増したかもしれない。

(原題:密愛)

11月上旬公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:ハピネット・ピクチャーズ、リベロ
宣伝・問い合わせ:オフィス・エイト
(2002年|1時間54分|韓国)
ホームページ:
https://www.happinet-p.co.jp/

DVD:密愛 Ardor
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