ピニェロ

2003/09/26 映画美学校第2試写室
NYラテン系コミュニティの立役者ミゲル・ピニェロの伝記映画。
役者は熱演しているが映画の構成は凝りすぎ。by K. Hattori

 強盗や麻薬中毒者として刑務所とシャバを往復しながら、劇作家、詩人、俳優として活躍したミゲル・ピニェロの伝記映画。僕はこの人のことをまったく知らなかったのだが(手持ちの百科事典にも彼の名はない)、プレス資料によれば『ニューヨークに住むプエルトリコ人で、彼の名を知らない者は誰もいない』のだという。ホントにそうなのか確かめようがないのだが、要するにニューヨークのプエルトリコ系コミュニティという小さな社会の中では、それなりに名の通った人物ということなのかもしれない。彼が獄中で書いたという戯曲「ショート・アイズ」は幾つかの賞を受賞し、1977年には映画化もされている。(この映画は日本で公開されなかったようだが、輸入ビデオを入手することは今でも可能だ。カーティス・メイフィールドが担当したサントラCDは国内盤も出ている。)

 主人公のピニェロを演じているのは、『デンジャラス・ビューティー』や『レッド・プラネット』に出演していたベンジャミン・ブラット。監督・脚本は『シュガー・ヒル』のレオン・イチャソ。ピニェロの母親役で『ウエスト・サイド物語』のリタ・モレノが出演しているが、映画としてはきわめて規模の小さなインディーズ作品。ピニェロゆかりの人々やニューヨークのラテン系コミュニティの協力を得て、この映画はわずか26日間で撮影されたという。

 この映画は確かにミゲル・ピニェロという実在の人物をモデルにした伝記映画なのだが、ピニェロの人生を時系列に描いて絵解きするものではない。映画の中ではピニェロにまつわる様々なエピソードと共に、ピニェロ本人が書いた戯曲や脚本、詩などが自由自在に引用されて、実在のエピソードを綴るドラマ部分と好き勝手に結びついていく。映画の中の時制もバラバラだ。現在のエピソードが突然過去のエピソードに飛び、舞台劇を上演しているかと思えばそれが現実のワンシーンとつながり、現実の場面は舞台劇と結びついていく。あるエピソードが別のエピソードを喚起すると、映画は観客に何も断らずにそちらに横滑りしていく。こうした映画の構成技法は、詩の文法に近いように思う。映画の作り手は、この映画そのものをピニェロの詩の世界になぞらえたのかもしれない。

 カラー撮影のデジタルビデオ映像とモノクロ16ミリで撮影された映像を、速いテンポでつないでいくのだが、僕はこれに違和感を持ってしまった。カラーとモノクロの使い分けは一般的に「現在と過去」とか「現実と虚構」といった使い分けをするのが常道。しかしこの映画ではそうした一般的な映画の決まり事を無視して、同じシーンでもカラーとモノクロが混在するし、現在と過去、現実と虚構といった区分を無視してカラーとモノクロが使われる。こうした手法が生み出す効果は何となくわかる気がするのだが、この映画についてはこうした小細工なしの方が力強いものになったように思う。

(原題:Pinero)

正月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給・問い合わせ:メディア・スーツ
(2001年|1時間35分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.mediasuits.co.jp/lineup/pinero.html

DVD:ピニェロ
輸入ビデオ:Pinero
サントラCD:PINERO
関連CD:original music for PINERO(キップ・ハンラハン)
関連DVD:レオン・イチャソ監督
関連DVD:ベンジャミン・ブラット
関連DVD:ジャンカルロ・エスポジート
関連DVD:タリサ・ソト
関連DVD:リタ・モレノ
関連洋書:Miguel Pinero
関連輸入ビデオ:Short Eyes

ホームページ

ホームページへ