2003/10/02 松竹試写室
中国伝統の料理を日本で守り続ける老夫婦のドラマ。
中国人は本当に商売熱心だなぁ……。by K. Hattori

 東京の四谷に済南賓館(チーナンひんかん)という、完全予約制の小さな中華料理店がある。厨房で鍋を振るう佐藤孟江・浩六夫妻は、中国の山東省から「正宗魯菜伝人」という称号を得ている伝説の料理人。魯菜(山東料理)は中国四大菜系のひとつとされているが、中国では文化大革命で千年以上の伝統を持つ正統派の魯菜が滅ぼされてしまった。済南賓館の佐藤孟江さんは戦前の中国で本格的な魯菜を学び、戦後日本に帰国しても中国で覚えた味と料理手法をかたくなに守り続けてきた。そのため中国では滅びた魯菜が、日本の小さな中華料理店だけで生き残るという、何とも不思議な現象が起きたのだ。

 夫婦ふたり合わせて150歳という伝説の料理人。映画はそんなふたりを密着取材している。映画の中でもっとも大きなドラマになっているのは、ふたりが中国に行って現地の料理人たちに「本当の魯菜」を伝えようとするエピソードだ。じつは佐藤夫妻は山東省の東方美食学院で客員教授をしており、時々中国を訪れては生徒たちに伝統的な魯菜の味を伝える授業を行っている。魯菜の基本は素材の味をいかに引き出すかにあり、素材の味を殺す砂糖や化学調味料、ラードは一切使わない。これが孟江さんの習った本当の魯菜だ。

 だが現在の中国では、そんな「本当の魯菜」を古くさいと言う。今は砂糖が貴重品だった昔とは違う。現代は豊富な食材を自由に選べるのだから、それを使って現代人の舌に合った新しい料理を作るべきだというのだ。かくして東方美食学院でも、魯菜を教える教授は料理に砂糖ドッサリだし、化学調味料も遠慮なく使う。佐藤夫妻はそんな今の中国料理界に、非常に不満なのだ。佐藤孟江さんは自分の青春時代の思い出がいっぱい詰まった魯菜を、こんな風にめちゃくちゃにしてほしくないと思う。そして本当の魯菜の味を伝えるために、自分が中国に渡って何とかできないものかと考える。

 今まさに高度成長期を迎えている中国では、食文化の継承よりも「フードビジネス」の方が大切らしい。東方美食学院も「本物の味」を伝えるより、砂糖と化学調味料をたっぷり使った濃い味付けで、より多くの客をつかんだ方が勝ち!というマスマーケット戦略がすべてなのだ。東京の四谷の小さな店で、少数の常連客相手に商売をしていた佐藤夫妻とは、考え方が根本から違うのだ。佐藤夫妻に向かって「あなた方の店を残すために我々と合弁会社にしましょう。料理も今風にアレンジして日本全体にチェーン展開しましょうよ」と憶面もなく提案できる東方美食学院の院長は、佐藤夫妻が今まで何を守ろうとしてきたのかがまったくわかっていない。

 2時間14分という映画の中には他にもいろいろな要素が詰まっていて、思わずクスクス笑ったり爆笑したりする場面もいくつかある。この日の試写室では佐藤夫妻も一緒に映画を鑑賞していた。お元気そうな姿を見てちょっとうれしくなった。

正月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給・宣伝:イメージフォーラム、メディアスーツ
問い合わせ:メディアスーツ
(2003年|2時間14分|日本)
ホームページ:
http://www.mediasuits.co.jp/aji/

DVD:味
関連DVD:李纓監督
関連書籍:済南賓館物語

ホームページ

ホームページへ