幸せになるためのイタリア語講座

2003/10/07 映画美学校第1試写室
町営のイタリア語講座に集まった人々の交流と恋愛模様。
デンマークで作られたドグマ作品。面白い。by K. Hattori

 コペンハーゲン近郊の小さな町を舞台に、町営のイタリア語講座に通う人々の交流と恋愛模様を描いたドグマ作品。映画の序盤に展開するのは、すべてがうまくいかない人間社会の生きにくさだ。新任牧師のアンドレアスは前任者から敵意むき出しの応対を受け、ホテルマンのヨーゲンはレストランで働く親友ハルをクビにしろと上司から命令され、美容師のカーレンは病気で入院中の母がたびたび金をせびりに店に来るのにうんざりし、パン屋で働くオリンピアは自分の不器用さと口うるさい父にびくびくする毎日。人が生きていくと言うことは、多かれ少なかれ毎日針のむしろの上で過ごすようなものなのだ。楽しいことなんてほとんどない。ささやかな願いは、今日1日を平安無事に過ごせることだけ。明日は今日より少しはマシな日になってくれることを祈りつつ、人はその日その日を暮らしているのだ……。

 ところが登場人物たちがイタリア語講座に通い始めた頃から、事態は少しずつ好転してくる。店員割れして閉鎖寸前の語学講座に生まれる、受講生同士の連帯感。ほのかに芽生える恋愛感情。やがて彼らは全員揃って、ベニスに旅行することになる。映画の後半は幸せモードに突入。ニコニコニヤニヤしながら映画を観て、最後は「すごくいい映画じゃないか!」と思える作品になっているのです。

 しかしこの映画には、ちょっと残酷なことがある。それは登場人物たちの「幸せ」が、親しい人たちの「死」の上に成り立っていることだ。口うるさい父が死んで、ようやく暴言や小言から解放されるオリンピア。疫病神のように自分にとりついて離れなかった母が死んだことで、新しい幸せをつかみ取るきっかけを得たカーレン。新任牧師は半年前に妻を亡くしているし、イタリア語講座は受講生たちの前で講師が心臓発作を起こしてそのまま亡くなってしまう。これだけ人がばたばたと死んでいながら、それでもなお観客を幸せな気持ちにさせてしまうのが、この映画の不思議さであり面白さだ。

 子供の頃によく転んで、ヒザやヒジにすりむき傷を作ったものだ。傷にはやがてかさぶたができるが、それが完全に乾いてペロリとはがれると、下から新しいピンク色の皮膚が現れる。この映画の中に出てくる「死」は、ちょうど傷口のかさぶたみたいなものだ。登場人物たちにとっての本当の痛みや苦しみは、この映画に描かれていないところで既に起きている。この映画は登場人物たちが心に追っている悲しみの傷から、かさぶたがポロリとはがれて新しく生まれ変わる様子を描いているのだ。

 ドグマ作品なのでそれほど予算もかかっていないようだが、物語の舞台が冬のコペンハーゲンからベネチアに移動した瞬間の開放感と高揚感は、「これが映画だ!」というドラマチックさ。こうなると映画の中で何が起きようと、観客は許しちゃう気になる。カードを使ったエンドクレジットもちょっと洒落ている。

(原題:Italiensk for Begyndere)

新春公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ザジフィルムズ 宣伝:メゾン
問い合わせ:メゾン、ザジフィルムズ
(2000年|1時間52分|デンマーク)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/

DVD:幸せになるためのイタリア語講座
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