イン・マイ・スキン

2003/10/08 映画美学校第2試写室
ふとしたきっかけで自傷行為にのめり込んでいく女性。
凄惨な流血描写が観る人を極度の不安に陥れる。by K. Hattori

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 フランソワ・オゾン監督の共同脚本家として、『クリミナル・ラヴァーズ』『まぼろし』『8人の女たち』などを手がけてきたマリナ・ドゥ・ヴァンの長編初監督作品。女優でもある彼女が、ヒロインのエステルを熱演じている。この映画は内容にかなりショッキングなものがあるとのことで、配給会社からの試写案内にはいつも「体調のいいときに来てください」という但し書きが添えられていた。こんなものは映画をセンセーショナルに見せようとする宣伝文句の一種だと思っていたのだが、じつは映画を観る人に対する本気の事前警告だったということを、映画を観ている最中に思い知らされることになった。これはかなりヤバイ。映画の中でありとあらゆる残酷なシーンや痛そうなシーンを観てきた人も、この映画には思わず目を背けたくなるのではないだろうか。

 パーティが開かれた知人宅の庭で転倒し、足に大ケガを負ったエステル。だが不思議なことにその時は痛みをまったく感じず、彼女自身ですらケガに気づいていなかったほどだ。自分の肉体に対する異物感と執着心が、この時彼女の心の中に深く根を張ることになる。それから数日後、エステルは会社で仕事をしている真っ最中に、自分の皮膚を傷つけたいという激しい衝動に駆られてそれを実行する。この時は、仕事のストレスから逃れたいという、一時的な衝動だと自分自身を納得させたエステル。しかし自傷に対する衝動は、やがて彼女のまったくコントロールできないレベルにまでエスカレートしてしまう。自分の体を傷つけながら、恍惚としたトランス状態に陥っていくエステル。自分の行動が異常なことであることも、これが場合によっては命に関わりかねないものであることも十分理解しながら、彼女は自分の行動を止めることができないのだった……。

 人間には自分のケガを冷静に客観視できるところがある。料理の最中に包丁で指先をザックリ切って血がどばどば出たとしても、切った本人はそれほど大あわてせずに、まるで他人ごとのように自分の指先を止血したりできるものだ。むしろ大あわてしてパニックを起こしたり、気分を悪くするのは周囲の人たちだろう。この映画はケガと人間のそんな関係性を極端に強調する。エステルは自分で自分の体を傷つけても平気の平左。しかしそれを見せられる観客は、相当のショックを味わうことになる。

 流血描写に弱い人は観ない方がいい映画だと思う。映画などしょせんは作り事のフィクション。そんなことは百も承知なのだ。それなのに、この映画がこれほど人に不快感を与えるのはなぜか。いや、正確には違う。この映画が観客に与えるのは、「不快感」ではなく「不安感」なのだ。自分自身の肉体を「物体」として扱うエステルの行動は、ダイエットやプチ整形に通じる、現代人の肉体観を反映しているようにも思える。エステルの行動に共感する女性は、案外多いかもしれない。

(原題:Dans ma peau)

12月20日公開予定 ポレポレ東中野
配給:アップリンク 宣伝:樂舎
(2002年|1時間32分|フランス)
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DVD:イン・マイ・スキン
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