サル

2003/10/09 アテネ・フランセ文化センター
新薬投与実験に参加した若者たちの周囲で奇妙な出来事が。
葉山陽一郎監督の長編劇場映画デビュー作。by K. Hattori


 危険なアルバイトとして一部で知られている新薬投与実験のボランティア。動物実験が終わったばかりの新薬を健康な人間に投与し、主として重大な副作用がないかを調べるもの。ボランティアに名乗りを上げるのは、“金はないが時間だけはたっぷり”という健康な若者たちだ。

 自主映画の監督をしている福家は映画製作の資金を作るため、ちょっとヤバそうなこのアルバイトに参加することにした。一緒に映画を作っている仲間たち4人との共同参加だ。都内の小さな病院で行われている実験の様子は、こっそり持ち込んだ小型のビデオカメラですべて記録される手はずだ。事前のちょっと後ろめたくドキドキした気分とは裏腹に、実験そのものはきわめて平穏無事に過ぎていく。参加者全員がそろいのパジャマを着て同じ病院に寝泊まりする様子は、何となく学生時代の合宿や修学旅行のようで楽しくもある。だが間もなく実験が終わるという時、ある事件が起きた……。

 この映画で長編劇場映画デビューを飾る葉山陽一郎監督は、ここで描かれたような新薬投与実験のアルバイトに参加した経験があるのだという。そのためだろう、映画の序盤から中盤にかけて克明に描写される病院内の様子や投与実験の詳細なディテールには、テレビのドキュメンタリー番組を見ているような生々しさがある。参加者の盗み食いを防ぐため食堂の冷蔵庫に鍵を掛けるとか、血液検査のために腕に刺した針を刺しっぱなしにしておくとか、病院を出られない参加者のかわりに看護婦がお使いに出るとか、新薬投与実験に繰り返し参加してバイト代をせしめるリピーターの存在などなど。映画を観ていると、「なるほど」「ふむふむ」「そうなっていたのか」とうなずくところが多い。

 ただし「実験中にアクシデントが!」という本来のストーリーについては、少々難がある。病院内を隠し撮りしていた映像という話法のほころびがあちこちに見受けられて、特にエピローグ部分などは完全に馬脚を現している。また最後の夜に何があったのか?というミステリーも、映画を観ているだけでは何がなんだかさっぱりわからない。この事件の後でビデオテープを巻き戻したり早送りする演出も、状況をわかりにくくしている原因のひとつだ。登場人物たちがその夜に体験した出来事の「真相」はともかく、「出来事」そのものは映画を観ている者にも「こんなことがあった」と伝えてほしい。でないと話が通じなくなってしまう。全体としてユニークで面白い作品だけに、このクライマックスの処理は残念だ。エピローグのべたべたした甘ったるさも、B級青春映画みたいだ。

 新薬投与実験で重大な副作用が!という話は、スティーブン・キングの小説「ファイアー・スターター」(映画版は『炎の少女チャーリー』)にも登場する設定。劇中でカメラをキングの本の中に隠すのは、「ファイアー・スターター」に対するオマージュと見た。

12月6日公開予定 テアトル新宿(レイト)
配給・宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
(2003年|1時間47分|日本)
ホームページ:
http://www.fields.jp/saru/

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