月曜日に乾杯!

2003/10/11 シャンテ・シネ3
仕事と家の往復という日常からちょっと抜け出した中年男。
のんびりしたムードは心地よいが、眠くなる。by K. Hattori


 『素敵な歌と舟はゆく』のオタール・イオセリアーニ監督が、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)と国際批評家連盟賞をダブル受賞した作品。美しい田園風景が広がるフランスの片田舎で家族と暮らし、勤務先の工場では溶接工の仕事をしているヴァンサンという中年男が主人公だ。彼の趣味は絵を描くことだが、家にいれば様々な雑事に追われ、会社に行けば無味乾燥な仕事が続き、生活にはまるで余裕というものがない。彼はある日突然ふらりと家を出たまま、水の都ヴェニスに旅に出るのだった……。

 通勤ラッシュ時のすし詰め電車に揺られながら、「ああ、会社に行きたくない」と思っている人は多いことだろう。いつも降りるべき駅で降りず、そのまま電車を乗り継いで行けば、温泉にでも海にでも行くことができるのだ。日常と非日常の境界は、ごくごく身近なところにある。しかし人はなかなか、その境界を踏み越えて向こう側に行くことはできないのだ。だが主人公ヴァンサンは、その境界を軽々と飛び越える。

 この映画の不思議さは、主人公の突飛で突然な行動が、周囲にまったく大きな波乱を呼ばないことにある。主人公の家族たちは一家の主が突然姿を消したというのに、それまでとさして変わらぬ日常を送る。主人公にしたところで、家族や仕事を放り出したという後ろめたさなどみじんも見せず、自分自身の「休暇」をたっぷりと楽しんでいるようだ。それだけではない。突然ワニが登場しようと、スリに全財産を盗まれようと、この映画の中ではそれが「平和で穏やかな日常」として見事に他の風景となじんでしまう。

 エピソード同士が強く結びついて緻密な物語世界を作るわけではなく、スケッチ風の小さなエピソードがゆるやかにまとまって、全体として大きなストーリーを作っていく構成になっている。僕はこの映画の直前に映画を1本立ち見していたせいか、それともこの映画を観る前に大忙しで腹ごしらえしたせいか、映画を観ていてついウトウトと眠くなってしまった。元気なときに観ればこの映画のゆったりしたテンポを心地よく感じたのかもしれないが、眠気で脳みその働きがスローモーになっていると、この映画のゆったりテンポと体がぴったりとシンクロしてしまって、どのシーンを観てもまるで刺激を感じなくなってしまった。

 今はやりの「スローライフ」という言葉がぼんやりと頭によぎる映画。主人公ヴァンサンの旅より、教会の壁画にまつわるエピソードや、なぜか女装してトイレ係をしている友人、ヴェニスの街頭で絵を描く人々や、やたらと見栄っ張りな老人など、脇のエピソードの方が充実しているように思う。映画序盤の工場のシーンも含め、ジャック・タチの映画に近いのかもしれない。工場のシーンなんて、まるで『プレイタイム』だ。ただしこの映画、タチの映画が持っているスマートさにはほど遠い。野暮ったさもまた、この監督の個性なのかな。

(原題:Lundi matin)

10月11日公開 シャンテ・シネ
配給:ビターズ・エンド
(2002年|2時間7分|フランス、イタリア)
ホームページ:
http://www.bitters.co.jp/kanpai/

DVD:月曜日に乾杯!
関連DVD:オタール・イオセリアーニ監督

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