女王フアナ

2003/10/17 メディアボックス試写室
人生の大半を幽閉されて過ごしたスペイン女王フアナの伝記映画。
夫への激しい愛情がフアナを狂気の行動に駆り立てる。by K. Hattori


 スペインを統一したイサベル女王の娘として生まれた王女フアナは、1496年にフランドルの名門ハプスブルク家に嫁いだ。カスティーリャとアラゴンの統一によって生まれた強大なスペイン王国と、神聖ローマ帝国の皇位を手中に収めたハプスブルク家とが手を結べば、両者の間に横たわる大国フランスを封じ込めることができる。フアナの結婚は典型的な政略結婚だった。だがフアナは夫となるフェリペ美公に出会った瞬間、彼の情熱的な求愛と甘美な愛の営みにすっかり魅了されてしまう。

 夫婦関係は仲睦まじくいたって円満。フアナは次々に子供を身籠もり、この若い夫婦の将来は順風満帆なものに思えた。だが結婚から数年後、フェリペは妻フアナに隠れて浮気を始める。嫉妬に身を焦がすフアナは、周囲の目をはばかることなく大声を上げて夫をののしり罵倒する。国政の中枢にいる人間がこれほど激しく感情を露わにすることは、当時の貴族社会では「狂気」と見なされても仕方のないことだった。やがてスペインではイサベラ女王が崩御し、フアナは強大なスペイン王国唯一の相続人となる。フェリペとその側近たちは嫉妬深いフアナを国政から遠ざけるため、狂気を理由にして彼女から王位を奪おうとするのだが……。

 30歳の時に狂気を理由に城に幽閉され、その後半世紀を閉じこめられたまま過ごしたスペイン女王フアナの伝記映画だ。原題は『狂女フアナ(Juana La Loca)』。映画は彼女の狂気をいわゆる精神障害とはせず、ひとりの女性が浮気癖のある夫を一途に愛しすぎた結果、嫉妬のあまり常軌を逸した行動に走ったと解釈している。夫に裏切られて深く傷つきながらも、彼を愛することをやめられないフアナ。裏切りに対する憎しみと憎悪にはらわたが煮えくり返るような思いをしながら、心と体はその裏切り者を求めてやまないのだ。愛情と憎しみの葛藤。男と女の間によくあるメロドラマだ。もしフアナが一般庶民であったなら、浮気性の亭主を持った焼きもち焼きの女房という、世間にありきたりな話で落ち着いてしまっただろう。だがフアナは巨大な王国の女王だった。夫もまた巨大な帝国の相続人だった。彼らにの手には巨大な権力が握られており、周囲にはその権力のオコボレに預かろうとする者たちがうごめいていた。それがひとりの女の焼きもち焼きに「狂気」のレッテルを貼る。

 映画は「女の悲劇」を中心に描かれていて、ヒロインの周囲で渦巻く政治劇はそれを細くする事件としてしか描かれていない。歴史劇としての重厚さはあまり感じられず、少女マンガかレディースコミックのような男と女の愛憎劇がメインになってしまったことに物足りなさも感じた。おそらくスペインでは「狂女フアナ」が有名な存在で、政治劇の部分については観客の多くが精通しているという前提でこの映画が作られたのだろう。日本人にはちょっとわかりにくいかも。

(原題:Juana La Loca)

2004年正月第2弾公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:角川大映映画 宣伝:樂舎
(2001年|1時間57分|スペイン)
ホームページ:
http://kadokawa-daiei.com/juana/

DVD:女王フアナ
日本公開版イメージ曲:Violin Muse(川井郁子)
関連DVD:ヴィセンテ・アランダ監督
関連DVD:ピラール・ロペス・デ・アジャラ
関連書籍:狂女王フアナ―スペイン王家の伝説を訪ねて

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