ヴァイブレータ

2003/10/23 映画美学校第2試写室
赤坂真理の同名小説を荒井晴彦脚本で廣木隆一監督が映画化。
ヒロインを演じた寺島しのぶの素晴らしさにつきる。by K. Hattori


 赤坂真理の同名小説を大ベテランの荒井晴彦が脚色し、廣木隆一が監督したラブストーリー。廣木監督は『東京ゴミ女』『不貞の季節』『理髪店主のかなしみ』など、倒錯したエロティシズムの中に見える現代人の孤独や優しさを描かせるとうまい監督。今回の映画もまさにそうした線の延長上にあるのだが、これまで以上に研ぎ澄まされた感覚で、人間の性と孤独を描いていると思う。ヒロインを演じた寺島しのぶが大胆なヌードや濡れ場を見せることが話題になっているが、それもことさらエロチックに見えるわけではない。ヒロインの食べ吐きなどと同じ、むき出しの人間がかいま見えるヒリヒリと痛いラブシーンになっている。

 31歳のフリーライター早川玲は、自分の頭の中でつぶやき続ける「もうひとりの自分」の声に悩まされながら、不眠と過食と食べ吐きを繰り返していた。わずかな睡眠を取るためには酒を飲むしかない。深夜のコンビニで声に悩まされながら酒を物色していた彼女は、店に入ってきたひとりの男に目を付ける。彼は長距離トラックの運転手だった。玲は招かれるままにトラックの助手席に乗り込み、シートの後ろにあるベッドスペースで行きずりのセックスをする。朝になって玲は一度トラックを降りるが、すぐに戻ってきて彼に言う。「私を道連れにして!」。トラックは次の目的地である新潟に向けて、ゆっくりと走り出した……。

 ヒロインを演じる寺島しのぶがすごくいい。彼女のいいところは、どこまでも「普通」だということだと思う。特別な美女というわけではないし、特別にスタイルがいいわけでもない。でもその「普通」であることが、演技と演出で上下左右どちらにでも引っ張れる柔軟性になっている。この映画のヒロインなんて、下手クソな女優が演じたら「このバカ女が!」「勝手に吐いて勝手に死ね!」と観客を苛立たせるだけの存在になりかねない。しかしこの映画の寺島しのぶは、早川玲というヒロインが秘めた弱さや柔らかさをうまく表現して、この役柄に観客の共感と同情を引き寄せる。映画のラストシーンで見せる、ヒロインの微妙な表情の変化に、思わず背筋がゾクリとしました。これが演技の地力というものでしょう。

 彼女の演技を真っ正面から受け止める大森南朋も、この映画で役者としての器の大きさを感じさせた。映画の中のかなりの割合を台詞が占めているのだが、互いに台詞の尻を食い合うような会話は見事にはずんでいる。これは脚本の台詞が生きている証拠だろうし、それを腹に入れてしゃべっている役者ふたりの技量でもあるのだろう。

 主人公ふたりに密着したカメラが時系列に移動していくだけの映画だが、それでも随所にトラックの空撮を入れたり、回想シーンを挿入したりして、小さく煮詰まりそうなドラマに時折さっと新鮮な空気を入れる。すべてが振り出しに戻るラストシーンが、深い余韻を感じさせる映画でした。

11月下旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:ステューディオスリー、シネカノン
宣伝:ライスタウンカンパニー
(2003年|1時間35分|日本)
ホームページ:
http://www.cqn.co.jp/

DVD:ヴァイブレータ
サントラCD:ヴァイブレータ
原作:ヴァイブレータ(赤坂真理)
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