グッバイ、レーニン!

2003/10/28 GAGA試写室
母親の病室に旧東ドイツを維持し続ける息子と家族の物語。
主人公が作る捏造ニュース番組には笑ってしまう。by K. Hattori


 アレックスは東ドイツの労働者向けアパートで、母や姉と一緒に暮らしている青年だ。一家の父親が10年前西側に亡命した後は、母クリスティアーネが教師として働きながら子供たちを育ててきた。1989年に建国40周年を迎えた東ドイツは、ソ連のゴルバチョフ書記長を招いて華々しい記念式典を執り行う。だがその裏では、民主化を訴える市民の街頭デモが行われていたのだ。その現場に偶然通りかかったクリスティアーネは、息子が目の前で警官に逮捕される様子を見て心臓発作を起こし、そのまま意識不明の昏睡状態に陥ってしまう。それから8ヶ月後、彼女は奇跡的に息を吹き返す。だがその間に、東ドイツという国家は事実上消滅していた。病気から回復したばかりの母に精神的なショックは致命的だと医者に宣告されたアレックスは、東ドイツ消滅の事実を母に隠そうとするのだが……。

 東西冷戦終結の象徴となった、ベルリンの壁崩壊と東西ドイツ統一。この映画はその一連の出来事を、ひとつの家族の姿を通して再現している。西側への門戸が開かれた東ドイツ市民の生活は、わずか数ヶ月で西側の自由主義経済に飲み込まれてしまった。これほどの変化に人間が簡単に順応できるというのも今となっては驚きだが、変化の中にいると、かえってその変化の大きさが実感できないのかもしれない。社会全体が大きく動いているため、その変化スピードを誰も相対的に測ることができないのだ。この映画は「東ドイツの生活を守り続ける家族」という静止点を設定することで、大きく変化していく社会の姿を正確に再現することに成功している。

 映画はコメディに分類されるホームドラマだが、一番笑ってしまうのはテレビが見たいという母親の求めに応じて、アレックスが旧東ドイツの官営放送を捏造するくだりだろう。現実には東ドイツ社会が消滅しつつあるのに、テレビの中の捏造放送では、東ドイツの栄光はますます高まり、社会主義革命は着々と世界中で進行しつつある。現実の中にあるほころびをテレビというメディアを通じて取り繕っていく姿は、全体主義国家におけるマスメディアの不細工なカリカチュアだ。この捏造放送を国家ぐるみでやっている国はいくらでもある。砲声と爆撃音の中で「攻撃はない」と海外のマスコミに言い続けたのは、イラクの情報相だった。北朝鮮では偉大な将軍様が、今日も国民のために優れた政治手腕をふるっていらっしゃる。

 この映画のいいところは、物語の中に生々しい人間の姿がきちんと描かれているところだ。東ドイツの崩壊という時代を正確に再現しながら、焦点が当てられているのは変化に翻弄されるひとりひとりの人間なのだ。はたしてクリスティアーネは、最後まで息子に騙されていたのか。それとも、途中から事実に気づいていたのか。それを最後に微妙にぼかしたのもミソ。現実を受け入れられなかったのは、母なのか、それとも息子なのか?

(原題:GOOD BYE LENIN!)

2004年正月第2弾 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ風
(2003年|2時間1分|ドイツ)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

DVD:グッバイ、レーニン!
関連DVD:ウォルフガング・ベッカー監督

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