この世の外へ
クラブ進駐軍

2003/10/29 松竹試写室
戦後の日本で進駐軍のクラブ回りをしていた若きジャズメンたち。
阪本順治監督の持ち味が存分に発揮された作品。by K. Hattori


 1945年に日本が戦争に負けると、占領軍として日本に乗り込んできたアメリカ兵たちは、それまで「敵性文化」として禁じられていた映画や音楽を大量に日本に持ち込んだ。当時のアメリカはジャズ全盛期。米軍基地内やその周辺にあるクラブには多くの兵士たちが集まり、そこにはジャズの生演奏を聴かせるために多くの日本人バンドが送り込まれた。ほとんどの日本人が焼け跡の中で食うや食わずの生活をしている中で、ジャズマンだけは高額のギャラを稼ぐ。ジャズマン志望者は後を絶たず、バンドの中身は玉石混淆。中には楽器を持ったこともないような素人も大勢混ざっていたという。

 この映画は戦後の焼け跡で進駐軍のクラブ回りをしているジャズバンドが主人公。寄せ集めの楽器とメンバーでしょぼい演奏をしていたバンドが、仲間との切磋琢磨やジャズ好きのアメリカ兵との関係を通していっぱしのジャズメンへと成長していく。昨日まで戦争で殺し合いをしていた日本人とアメリカ人が、音楽を通して交流していく。監督は阪本順治。『KT』で1970年代の日本を正確に再現した時代考証へのこだわりが、今回の映画でも存分に発揮されている。物語は日本の敗戦から朝鮮戦争が始まった1950年頃までを描いているのだが、その間にまったくの焼け野原から少しずつ復興していく戦後日本の町並みの変化を、定点観測でもするかのように緻密に描いていく。こうした町並みの変化が細かく描かれていることで、主人公たちジャズメンの成長や戦争で傷ついた兵士たちの心が癒えていくのに必要な「時間」そのものが表現されているわけだ。

 阪本順治監督は前作『ぼくんち』がまるでダメだったのだが、今回はデビュー以来得意とする「オトコの映画」をキッチリと作っている。ドラマの中心を日本人サックス奏者の広岡と日本人嫌いのアメリカ人サックス奏者ラッセルの対立と友情に置き、その周辺に他のバンドメンバーのエピソードを積み上げていく構成も悪くない。しかし主演の萩原聖人に、もう少し「熱さ」があってもよかったかもしれない。映画の最後が少々尻切れとんぼになったのは、萩原聖人に物語全体を引っ張る力が不足していたからだと思う。

 ジャズメンが主人公の映画ということもあり、劇中には数々の演奏シーンや歌唱シーンがちりばめられている。「Take the A Train」「Danny boy」「All the things you are」など、日本人にも馴染みの深いスタンダード曲の数々。クライマックスで演奏される「Out of this world」はオリジナルだが、エンドロールではビッグバンドスタイルで演奏される「Take the A train」。そこで顕彰される戦後世代のジャズメン(女性歌手も混ざってる)たちの姿にちょっと感動。映画自体はフィクションだが、エピソードの多くは当時のジャズメンたちの逸話をもとにしているようだ。

2004年春公開予定 全国松竹系
配給:松竹
(2003年|2時間3分|日本)
ホームページ:
http://www.konoyo.jp/

DVD:この世の外へ/クラブ進駐軍
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