SANSA

2003/11/05 ル・シネマ2
世界各地を身ひとつで放浪する自由人サンサの旅。
物語性希薄なドキュメンタリータッチの映画。by K. Hattori


 長編デビュー作『LOUISE(TAKE2)』が日本でも公開されている、シグフリード監督の長編第2作目。前作にエロディ・ブシェーズと共に主演していたロシュディ・ゼムが、今回の映画の主役だ。タイトルの『SANSA』は主人公の名前。僕は『LOUISE(TAKE2)』で物語性が希薄な部分に面白さを感じたのだが、今回の映画はまるで物語らしい物語がない。主人公のサンサがパスポートひとつだけを持って、世界各地を目的も見えないまま放浪していく。各地域ごとに小さなエピソードのまとまりはあるのだが、それがドラマとして映画全体に影響を及ぼすことはない。

 風来坊のサンサが世界各地を放浪していく。旅の目的はわからない。それは運命の恋人を探すためであるかもしれないし、友人に頼まれた使い物を届ける旅であるかもしれないし、単なる放浪癖なのかもしれない。とにかくサンサはいつも移動する。その移動距離は地球規模だ。ある日突然フランスに現れたサンサは、スペインをうろついていたかと思えば、次はイタリア、ハンガリー、ロシア、やがてインドを経由して日本へ。そこからモロッコ、エジプト、ポルトガル……。飛行機、列車、船、ヒッチハイクもすれば徒歩で国境も越えていく。空港では警備員に捕まり、貨車からは引きずり出されて警察の取り調べを受け、コンサートホールでも警備員たちに追いかけ回される。それでもサンサは止まらない。彼はどこまでも移動を続けるのだ。

 物語らしい物語はないが、強いて物語らしきものを探すとすれば、旅の途中で出会った世界的なヴァイオリン奏者との関係にかなりの時間が割かれている。ユダヤ人の老ヴァイオリン奏者クリックを演じるのは、国際的に活躍しているヴァイオリン奏者のイヴリー・ギトリス。世界的な有名音楽家と無名の風来坊の交流は、観ていてちょっと面白い。ふたりは世界各地で再会と別離を繰り返す。ただしそれがふたりの生き方を変えるような交流には発展しないのだ。再会すれば嬉しいし、別れればちょっと寂しいなと思う。その程度の淡い関係。これは他のすべての関係とも共通する、サンサなりの人間関係のありようなのだ。

 サンサを演じたロシュディ・ゼムが最高。目があっただけの女性を突然口説き始めたり、空港で警備員をわざと挑発したり、こんなヤツが本当にいたらかなりヤバイ。しかしゼムハはそんなサンサという男を、人なつっこくてチャーミングな人間に仕上げている。もっともこれはゼムひとりの功績ではなく、監督のシグフリードの力量でもあるのだろう。日本の場面に登場する安部譲二や藤谷文子も、短い出演シーンながらじつに魅力的に描かれているのですから……。

 全体に好感が持てる映画ながら、2時間近くこれを観るのはちょっとしんどい。途中でズルした国(実景だけ撮って挿入している)はすっ飛ばして、1時間半ぐらいにまとめてほしかったなぁ。

(原題:SANSA)

第16回東京国際映画祭 コンペティション作品
配給:ザナドゥー
(2003年|1時間58分|フランス)
ホームページ:
http://www.tiff-jp.net/

DVD:SANSA
関連DVD:シグフリード監督
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