Seventh Anniversary
セブンス アニバーサリー

2003/11/14 サンプルビデオ
失恋から生まれる小さな石が、恋愛下手のルルの運命を変える。
失恋の痛みを描く行定勲監督のファンタジー。by K. Hattori


 失恋をするたびに、ルルはその痛みを小さな石として身体の外にはき出す。色とりどりに光り輝く宝石のような石。最初の石が出たのはまだ中学生だった頃。医者が言うには尿管結石の一種とのことだが、それは必ず、ルルが失恋するたびにひとつずつ現れるのだ。7度目の失恋と7つめの石。ルルはその石に「セブンス・アニバーサリー」という名を付けて指輪にする。ところがそんなルルを雑誌が取材したことから、日本中の女の子たちの間で突如として「失恋石ブーム」が巻き起こってしまう。どういうわけかルル以外にも大勢の女性たちが失恋するたびに石をはき出しはじめ、それが市場で高値を呼ぶようになる。ルルはこの世界のカリスマに祭り上げられるのだが……。

 監督は現在日本で一番たくさん青春映画を撮っている行定勲。主演は『オー・ド・ヴィ』の小山田サユリ。物語は恋についてのファンタジー、失恋の寓話といったタッチで、現実の日本社会をチクチクと批判するような皮肉なユーモアが少しまぶしてあったりする。主人公の身に起きるドラマチックな出来事を描くのではなく、主人公を基点にして起きるさまざまなエピソードを数珠繋ぎにしていく構成だ。そこには主人公とまったく面識のない人も大勢いる。その一部は映画の後半で主人公と交差していくが、まったく無関係なまま終わってしまう人たちも大勢いる。

 この映画は登場人物たちに生活感があまりなく、キャラクター造形はかなり抽象的だ。そもそもヒロインは普段、なにをして暮らしているのかわからない。彼女の石にポンと多金を払った男にしても、いったい本業はどんな商売なのか……。ここでは生活のリアリズムを排除して、登場人物たちを記号として扱われている。だからルルはどんなにお金持ちになっても、もともと暮らしていた小さなアパートから引っ越さない。彼女のパートナーとなる男性の不誠実さは彼が浮気している場面で示されるが、相手の女がどこの何者なのかにはまるで関心が向かない。この場面は「彼は不誠実」「それに気づかないルルはお人好し」ということさえ観客に伝われば、それでいいのだと割り切られている。

 恋愛と失恋、そこから生まれる恋の記憶という素材は、密接な場所から描くとどうしたって湿っぽくなるだろう。でもこの映画はファンタジーという手法を借りて、この難しい素材から一歩離れた距離を保つことに成功している。各エピソードがふくらんでいかないのは制作規模(予算や撮影日数)の問題も大きいのだろうが、こうしてエピソードの芯の部分だけを描いていくことで、映画が描こうとしている全体像が見えやすくなる効果も生まれているのだ。

 美術デザインがチャーミング。主人公の住まいやお店はもちろん、借金取りに追われる夫婦の部屋や借金催促の張り紙までが、フォトジェニックな風景となっている。主人公のはき出した石のように、小さくてきれいな映画なのだ。

11月22日公開予定 シネアミューズ(レイト)
配給:スープレックス、リベロ 宣伝:JMP
(2003年|1時間16分|日本)
ホームページ:
http://www.multi-cinema.com/

DVD:Seventh Anniversary
主題歌CD:オクリモノ(cuetracks)
主題歌CD:"The day you lit my heart"収録

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