NITABOH
仁太坊−津軽三味線始祖外聞

2003/12/09 メディアボックス試写室
津軽三味線の始祖秋元仁太郎(仁太坊)の伝記アニメ。
音楽が現代調なのは少し残念。by K. Hattori


 最近は「新しい日本の音楽」として、若い音楽ファンからも注目されている津軽三味線。しかしその源流をたどっていくと、幕末に生まれて明治大正時代に活躍した仁太坊という男に行き着くという。この映画は津軽三味線の始祖として知られる仁太坊が、苦心惨憺してまったく新しい三味線の演奏法を生み出すまでを描く長編アニメーション映画だ。

 幕末の津軽。主人公の仁太郎は、被差別階級である渡し守の子。幼い頃に疱瘡にかかって失明するが、生来の音曲好きの才を生かして三味線を学び始める。仁太郎を生んですぐに亡くなった母親も、この地に流れ着いたはぐれゴゼ(盲目の女芸人)だったという。江戸時代には盲人が三味線を習う場合、当道座という集団に属す習わしだったが、身分の低い仁太郎にはそれが許されない。彼は津軽に流れてきたタマナという子連れのゴゼから三味線の手ほどきを受ける。やがてまだ幼い仁太郎を残して父が亡くなる。仁太郎はたったひとりで三味線を抱えて門付け生活を始め、やがてめきめきとその三味線の腕を上げていく。独学の三味線は力強く哀愁を帯びた音色で人々を魅了するが、仁太郎自身は自分の演奏が壁にぶつかっているのを感じていた……。

 津軽三味線の歴史研究で知られる大條和雄の「ファンタジーミュージック 津軽三味線始祖・仁太坊の一生」が原作。監督・脚本は全国規模の学習塾チェーンを経営するワオ・コーポレーションの社長・西澤昭男。劇中の三味線演奏は、若手の津軽三味線演奏家・上妻宏光。主題歌を加藤登紀子の娘・Yaeが歌っている。映画は仁太坊(秋元仁太郎)の史実をもとにしているが、彼にまつわる史実に伝説や伝承をからめたフィクションに仕上げている。主人公のロマンスやクライマックスの三味線合戦などはまったくの創作だそうだが、こうしたことはハリウッド製の伝記映画にもよくあることで、「史実ではない」と非難されるような筋合いのものではないだろう。

 主人公が伝説の音楽家ということで、映画の中では音楽が重要な役割を果たしている。ところがこの映画では、あまり津軽民謡を使っていないことが気になった。絵柄は今風のスッキリしたものなので、音楽で津軽の郷土色を押し出していかないと、映画のモチーフが生きてこないのではないだろうか。さすがに仁太郎の演奏シーンは上妻宏光が担当しているのだが、音楽がワルシャワ・フィル(音楽監督はクリヤ・マコト)で本当にいいのか? 主題歌や挿入歌にYaeを持ってくることが、本当にいいことだったのか?

 僕はこの映画から仁太坊が生きた「津軽の風土」を感じることができなかった。この映画に出てくる津軽三味線以外の音楽は、民謡ではなく「フォークソング」ではないのかなぁ……。旧来の民謡と津軽三味線の違いや、「叩く」と表現される津軽三味線独自の演奏法などを、もっと具体的に見せてくれるとよかったんだけど。

2月21日公開予定 銀座シネパトス
配給:ワオワールド 配給協力:メイジャー
(2003年|1時間40分|日本)
関連ホームページ:
http://www.wao-corp.com/animation/nitaboh/

DVD:NITABOH/仁太坊−津軽三味線始祖外聞
関連書籍:津軽三味線の誕生(大条和雄)
関連CD:上妻宏光(津軽三味線)
関連CD:Yae(主題歌・挿入歌)
関連DVD:西澤昭男監督
関連書籍:津軽三味線

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