ショコラーデ

2003/12/10 松竹試写室
NYのホテルで起きたユダヤ人女性殺人事件に隠された真実。
ヒロインがまったく可愛くないのが致命的。by K. Hattori


 アメリカは世界有数のユダヤ人コミュニティがある国だが、中でもニューヨークはユダヤ人が多いことで有名だ。主人公デイビッドもそんなアメリカのユダヤ・コミュニティの一員。ある日彼の母親が、ドイツで起きたチョコレート工場放火事件の新聞記事を見て顔色を変えた。工場を経営するゴルドベルグは、母の父親(デイビッドの祖父)だというのだ。母の家族は半世紀以上前にホロコーストで全滅したはず。母の言葉を孤独な老人の妄想と決めつけたデイビッドだったが、数日後に母はホテルで何者かに襲われて死んでしまった。第一発見者はユダヤ系ドイツ人で、現在はアメリカで暮らしているレナという女性。じつは彼女の母親こそ、デイビッドの母を突き倒して殺した張本人だった。いったいふたりの間に何があったのか?

 殺人事件のミステリーが半世紀以上前のホロコーストという悲劇の記憶を呼び起こし、さらにそこに戦争とは無縁な世代のラブストーリーがからむという映画。監督・脚本のダニー・レヴィが主人公デイビッドを演じ、共同脚本のマリア・シュラーダーがヒロインのレナを演じている。脚本はそれなりに面白いと思うのだが、この主役ふたりの配役が物語の説得力を奪っている面がなきにしもあらず。デイビッドとレナが愛し合うようになる描写に、どうも説得力がないのだ。

 レヴィとシュラーダーはかつて私生活でもパートナー同士だったことがあるそうだが、この脚本はその頃に書かれたのではないだろうか。主人公たちが運命的な恋に落ちるドラマを何の説明もせずに押し通してしまえる図々しさは、脚本を作っている段階で本人たちが互いに愛し合っていたと考えると無理もないものに思えるのだ。恋は盲目。「自分たちが愛し合っているのだから、映画の中で自分たちが演じる男女も愛し合って当然」という思いこみの強さ。恋愛なんて理屈じゃないから、本物の恋に複線も下準備も必要ない。でも映画の脚本には複線や下準備が絶対必要なのだ。もしくは主演の俳優たちが、誰もが一目で恋に落ちるような美男美女であるか……。だがこの映画には、そのどちらも欠けている。

 サスペンス・ミステリー映画としては、デビッド・ストラザーン演じる私立探偵の行動が少し不可解だとも思う。彼の生い立ちや政治思想的な背景などを、もう少し詳しく描いておくとその後の行動もわかりやすくなったのではないだろうか。デイビッドの母とレナの母が、戦後50年間一度も連絡を取り合わなかったというのもどこか不自然。この不自然さの裏には「友情に対する信頼」と「裏切り者の後ろめたさ」があるようにも思うのだが、映画がそれらについて触れているとは思えない。この脚本をハリウッドで手直しして映画化すれば、エンターテインメント色の強いサスペンス・スリラーの秀作になったかもしれない。(こうした点について、僕はハリウッドのプロの腕をわりと信頼しているのだ。)

(原題:Meschugge)

2月14日公開予定 日比谷スカラ座2
配給:パンドラ 宣伝:スキップ
(1998年|1時間47分|ドイツ、スイス、アメリカ)
関連ホームページ:
http://www.pan-dora.co.jp/schokolade/

DVD:ショコラーデ
関連DVD:ダニー・レヴィ監督
関連DVD:マリア・シュラーダー

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