eiko

2004/01/15 東芝エンタテインメント試写室
麻生久美子が誰にでも騙されてしまうお人好しのヒロインを演じる。
日本版『アメリ』というのはちょと違うと思うぞ。by K. Hattori


 キャッチセールスや訪問販売に余計なものばかり買わされて、とうとうマチ金相手に多額の借金を抱えるに至った秋森エイコ。ところが本人は自分がガラクタを買わされているという自覚がまったくない。だがそんなエイコに転機がやってきた。運命を切り開くという高額な指輪を買わされた翌日、エイコの勤めていた会社が給与の支払いを滞納したまま夜逃げしてしまったのだ。自宅アパートにはマチ金の取り立てが張りついており、彼氏を訪ねても逆に金をせびられる始末。行くあてを失ったエイコが社長の自宅マンションを訪ねたところ、そこにはひとりの見知らぬオジイサンがたったひとりで住んでいた。彼はエイコを見つめて「加代じゃないか」とつぶやく。さほど高齢とも思えぬこのオジイサン、気の毒なことにすっかりボケて、エイコを自分の知り合いと勘違いしているらしい。エイコは江ノ本というこのオジイサンのマンションに転がり込むことにしたのだが……。

 主人公のエイコを演じるのは、映画やテレビで大活躍中の麻生久美子。彼女と同居を始める江ノ本老人を沢田研二が演じている。「沢田研二がボケ老人? いくらなんでもそれはないだろ!」と思ったら……。あとは観てのお楽しみ。他にも南果歩、大杉漣、安部サダヲ、宇垣剛士、袴田吉彦から、ちょい役の田口浩正、徳井優、桜井センリまで、芸達者の俳優たちがずらりと登場。監督の加門幾生は映画の助監督やテレビドラマの演出で実績のある人で、この『eiko』が劇場映画デビュー作だという。

 配給・宣伝会社はこの映画を『アメリ』の日本版として売ろうとしているようだけれど、それはだいぶ違うんじゃないだろうか。『アメリ』との共通点は、映画のタイトルがヒロインの名前になっている部分ぐらい。似ても似つかぬ映画を強引に結びつけると、観客にいらぬ期待を抱かせてかえって失敗するのではないだろうか。

 他人を信じて失敗ばかりしてきたヒロインが人間不信に陥るものの、そこから再び人を信じて生きていこうと決心するまでを描くドラマです。このヒロインには『アメリ』のヒロインが持っていたような邪悪さがない。単なるお人好しやおっちょこちょいを通り越して、ひたすら純真無垢な子供のままの精神を持つ女性なのです。人物造形としては『アメリ』よりも、ラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のヒロインに近いかもしれない。つまり聖愚者の系列につながるヒロインです。周囲の人々はそんな彼女と関わりを持つことで、自分自身も浄化されていく。その代表が江ノ本という怪しげな男なのでしょう。

 話の骨格はわかりやすいものの、人間の心の不思議に踏み込んで行くにはあと少し力不足な印象を受ける。全体にきれい事すぎて、ヒロインにも周囲の人々にも、いま子の時を生きているキャラクターとしての生々しさが感じられないように思う。

2月28日公開予定 テアトル池袋
配給:日本シムコ、東京テアトル 配給協力:オムロ、シー・ワークス
2003年|1時間48分|日本|カラー
関連ホームページ:
http://www.bonds-inc.com/eiko/

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