真珠の耳飾りの少女

2004/02/12 GAGA試写室
フェルメールの秘密のモデルになった若い女中の物語。
美術と撮影がフェルメールの世界を見事に再現。by K. Hattori


 17世紀のオランダの画家フェルメールは、その名声の割には作品点数がきわめて少ないことで有名。現在残っている作品は、世界中で35点前後しかないという。「デルフトの眺望」「小路」の風景画が2点あるが、残りはすべて人物画。有名な作品には「牛乳を注ぐ女中」や、この映画で取り上げられている「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」などがある。この映画はフェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」がいかに描かれたかを再現する実録風のフィクション。トレイシー・シュヴァリエの同名小説を、これが長編デビュー作のピーター・ウェーバー監督が映画化している。

 フェルメールの生涯は謎に包まれていて、彼がどんな職業で生計を立てていたのかさえ明らかになっていないらしい。残されている作品も正確にいつ描かれたのかはわからないし、モデルになった人物も不明なものが多い。「真珠の耳飾りの少女」も彼の娘のひとりがモデルだという説もあるようだ。映画ではこの映画のモデルとして、フェルメール家に奉公に来たひとりの少女を設定している。スカーレット・ヨハンソン演じるグリートは、タイルの絵付け職人をしていた父親が失明したことから、家計を助けるためにフェルメール家で女中奉公をすることになる。一家の主人フェルメールは気むずかしい芸術家だが、新しい女中グリートが絵に関心を持っていることを知ると、彼女に自分の仕事を手伝わせるようになる。

 この映画の見どころはその美術と撮影にある。まるでフェルメールの絵そのものが動き出したような、画面の質感と奥行きには驚かされた。これはやはり映画業界内でも高く評価されているようで、今年のアカデミー賞では美術賞・撮影賞・衣装デザイン賞にノミネートされている。ただし他のノミネートはない。お話は十分に面白いのだが、この映画はドラマのピントがきちんと定まっていないように感じるのだ。

 フェルメールはグリートに女性としての魅力を感じていたようだし、グリートの行動を見ても、彼女はフェルメールを男性として慕っていたことは明らかだ。だがふたりはアトリエという密室の中で、ついに性的な関係を結ぶことがない。性的な感情の高まりが、性的な関係に着地しないネジレ。それこそがこの物語のテーマだと思う。画家の創作欲というのは、得てしてこうしたネジレを生じさせる。恋情や性的な欲望と画業が一致している画家もいるが、この映画のフェルメールは性的な感情の高まりが絵筆の先からほとばしるタイプらしい。グリートはそれを理解し受け入れる。耳たぶにピアスの穴を開ける痛みは、グリートの破瓜の痛みなのだ。

 ところがこの映画は、アトリエの中についにエロスの空間を作れずに終わっている。これは脚本が悪いのか、それとも演出が悪いのか、あるいはフェルメール役のコリン・ファースにフェロモンが足りないのか……。

(原題:Girl with a Pearl Earring)

4月上旬公開予定 シネスイッチ銀座、シネリーブル池袋、関内MGA
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ
2002年|1時間40分|イギリス|カラー|シネスコ|SRD、ドルビーSR、デジタル、dts
関連ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

DVD:真珠の耳飾りの少女
原作:真珠の耳飾りの少女(トレイシー・シュヴァリエ)
原作洋書:Girl with a Pearl Earring (Tracy Chevalier)
サントラCD:真珠の耳飾りの少女
サントラCD:Girl with a Pearl Earring
関連DVD:ピーター・ウェーバー監督
関連DVD:スカーレット・ヨハンソン
関連DVD:コリン・ファース
関連DVD:キリアン・マーフィー
関連DVD:トム・ウィルキンソン
関連書籍:フェルメール関連
関連洋書:Vermeer関連

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